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都合のいい男の告白の返事
指先からキリの体温がじわじわと伝わって来て、俺は徐々に正気に戻った。
「キリ。お前、どうしてここに。」
「元々、俺もこっちに用事があったんだよ。それに、折角元気になったのに、お前が地元に戻って碌に一緒にいれなかったから。」
だから、会いに来た。
そう言ったキリの言葉は、俺の胸に優しく響いた。
でも、俺はキリを突き放さなくちゃいけなかった。
「キリ、俺は駄目だよ。駄目なんだ。」
「どうして?俺で寂しさを紛らわそうとするから?それとも大事に出来ないから?」
「どっちもだよ!」
そう言って、俺はキリの手を振り払って睨みつけた。
ああ、俺は好きな奴に対して、何をやっているんだろう。
でも、このまま何食わぬ顔をして、キリを受け入れるなんて出来そうになかった。
「別にそれでもいいんじゃないか。」
俺はそのキリの言葉に耳を疑った。
「は?な、なにを言っているんだ。」
「だから、別にそれでもいいって言っているんだ。セイに寂しさを紛らわせる為の道具として利用されたって、大事にされなくたって別にいい。」
そう言って、キリは俺に向かって一歩踏み出していた。
俺は反射的に後ろに半歩下がったが、
キリは逃げられないようにする為か、腕を掴んできた。
「なあ、俺が何時からセイのことを好きだったか教えてやろうか。中学生に上がる頃にはお前のことが好きだったんだ。でも、俺はお前の好みじゃないから無理だって何回も諦めようとして、散々別の男と付き合っている所を見て来て苦しんで、それでも好きなんだ。」
そう言って、キリは熱い溜息を吐いた。
そして、顔を歪めながら話を続ける。
「なあ、キリ。お前が俺をどう扱うかなんて考えなくていい。お前の気持ちだけ聞かせてくれ。俺の事が好きか?」
そう言ったキリの熱っぽい眼差しに嘘を吐けず、俺は頷いてしまった。
すると、キリに口付けられて頭が真っ白になった。
1回、2回、3回。
それだけキスを重ねて、キリの顔が離れて行った。
「俺と付き合ってくれるか。」
「う、上手く行くか分からない。」
「上手く行くように死に物狂いで努力するから。」
頼むよ。
そう言ったキリの言葉の切ない響きに、
引き摺られて俺はつい分かったと言ってしまった。
そうしたら、俺は思いっ切りキリに抱きしめられた。
俺がキリの温もりに包まれながらも、これからは恋人としてこいつを大事にしたいと強く思ったのだった。
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