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都合のいい男と地味な幼馴染
俺の名前は奥田清次郎。年齢は20歳。
今は大学生でバイトと遊びと偶に学業に精を出している。
親は金持ちで3人兄弟の中間の俺のことをほどほどに放任しつつ、困っていれば金もくれるのであまり不満もない。
そんなお気楽な俺の悩みはと言うと。
「セイ。お前、また彼氏と別れたの?」
そう、幼馴染の男に心配そうな顔で聞かれて罪悪感が疼いた。
こいつの名前は鴨田桐太郎。
普段はキリって読んでいて、向こうは俺をセイって呼んでくる。
理由は忘れた。
出会った頃の記憶がない位、付き合いが長いから無理はないだろう。
馬が合ったのか、それとも同性愛者同士で隠すものはないからか、こいつとの付き合いは肩の力を抜いて楽しめた。
本人には言うつもりはないが、それなりに大事に思っている幼馴染であり友達だ。
「まーね。なんか尽くし過ぎて疲れちゃって。」
「ああ。また、無料カウンセラー兼、家政婦兼、娼婦みたいなことをやってたんだろ。そんな無理をしてたら、しんどくなってくるのは当然だろ。」
そう言ってキリは、まあ飲もうぜと言って、冷蔵庫から冷えたビールを取り出してくれた。(ちなみに、ここはキリの借りているアパートである。俺は遊びに来ていたのだ。)全く、良い奴である。見た目が地味で全然好みじゃないけれど。
そう、俺の悩みはつい恋人に都合のいい男として振舞ってしまうことだった。
俺の歴代の彼氏たちは、皆過去になにかあったメンヘラ系のハイスペだった。男の趣味が悪い?放っておけ。
あいつらは皆、チャラい見た目に反して尽くしてくる俺のことを「ギャップがあっていい。」と喜び、物分かり良く振舞っている俺を段々見下すようになって酷い扱いをするようになって、最終的に他の男と浮気をされて泥仕合をして別れるのを繰り返していた。
これはキリには言っていない。きっとあいつは幼馴染が碌でもない仕打ちをされたと知ったら、きっと凄い勢いで怒ってくれるから。ただ、俺が尽くすのを止められなくて負担になって別れたとだけ伝えてある。
「ほれ、ビール。彼氏と別れた記念に恵んでやるよ。」
そう言って、キリはビールを差し出してくれた。
「おー、ありがとう。お前が俺好みのイケメンだったら惚れてたわ。」
俺がそう言って受け取ると、キリは困ったように笑った。
まあ、幼馴染にこんなことを言われても困るか。悪い悪い。
それから一緒に酒を飲んだものの、飲み足りなくて、近所のスーパーで追加の酒とつまみを作る材料を買って、そのままその日の晩は飲み会をすることになった。
まさか、その日の晩にキリがあんなことを言い出すなんて、その時の俺は思ってもみなかったんだ。
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