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「なあ、鈴川。俺、優しくて真面目な幼馴染に告られたんだけどさ。」
「羨ましい。地獄に落ちろ。」
「そこまで言う?!」
ここは大学の食堂である。
最も味がマズくて有名なのであんまり人はいない。
利用しているのはあんまり懐に余裕がなくて、その料金に釣られてきた奴ばっかりだ。
そんな場所で俺はばったり会った同じ学部の鈴川と話をしていた。
こいつはイマイチ見た目は冴えないが、真面目で信頼できる男だった。
普段はこんなことを言う奴じゃない。
ひょっとして、何かあったのだろうか。
「なんか荒れてんな。片想いをしていた子と上手く行かなかったのか。」
確か、鈴川はバイト先の可愛い女の子に片想いをしていた筈だ。それで、まあまあ仲良くなって脈がありそうだから、告白してみるとかどうとか最後に会った時に言っていたような。
「もうバッサリ振られたよ!あー、初めから可能性がゼロなら、告った時に考えさせてなんて言わないで欲しかった。俺は2か月も返事を待ってたんだぜ。」
背中に冷たい物が流れた。
俺もキリに考えさせてくれと言っていたからだ。
まあ、確かに告白の返事を待つ側としては、2か月は長いかも知れない。
と言うか、それだけ待たされたら、人によっては次に行ってしまうだろう。
キリはいつまで俺の返事を待ってくれるんだろう。
ふと急にそんなことを思った。
「まあ、一緒に飲みにでも行こうぜ。奢ってやるよ。」
「本当?!奥田っていい奴だって前から思ってたんだよ。お前は地獄じゃなくて天国に行くわ。」
そんなしょうもない遣り取りを鈴川としながらも、その一度湧いた疑問は俺の頭の中にへばり付いたままだったのである。
「うー。飲んだ飲んだ。」
あれから大学で授業が終わった後に、俺は鈴川と飲んでどうにか自分のマンションの部屋に帰宅した。少し飲み過ぎてしまったらしく、足元がふらふらしている。
全く失恋をして荒んでいる友達に酒を奢っている場合じゃないのに、一体何をやっているんだろう。
ベッドに寝転がりながらスマホのメールをチェックしていると、酔って気が大きくなっていたのか、ふと魔が差してしまった。
俺はキリに電話を掛けたのだ。
(俺達は遣り取りする時は、メールやLINEはほぼ使わなかった。俺はLINEもメールも使うが、キリはちまちま文字を打つのが面倒とか言って、碌に返信もして来なかったからだ。)
今は夜の11時。
余裕でキリは起きているだろう。
「セイ?どうしたんだ?」
案の定、キリは俺の電話に出てくれた。
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