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「あ、いや。」
キリから急にどうしたと聞かれると俺は言葉に詰まってしまった。
えーと。なんて言えばいいんだろう。
それを察したのかキリはこんなことを言って来た。
「ひょっとして、もう俺の告白に対する答えが出たわけ?」
「い、いや、それはまだ!もう少し考えさせてくれ。」
そうだよな。
告った奴が夜に急に電話を掛けて来て、言いにくそうにしてたら、その返事だと思うよな。キリは悪くない。でも、これ以上誤解される前に、さっさと俺は本題を切り出すことにした。
「あのさ。俺はキリの告白に対して考えさせてくれって言っただろ?でも、その、キリはどれぐらい返事を待てる?」
「どれぐらい待てるか?」
「ああ。なんかやっと答えが出たと思ったら、お前が他のやつに目移りしてたなんて展開はごめんだし。」
そう言うとキリはおかしそうに笑った。
それを聞いて俺は割と腹が立った。
「おい!笑うなよ!こっちは真面目に話しているんだけど?」
「いや、ごめん。だって、有り得ないからさ。」
「有り得ない?」
思わず、オウム返しにしてしまった。
俺だったら告白をされて何の返事もされずに放置されたら、他の奴に靡かない自信なんて全くなかった。
「だって、セイが俺のことを真剣に考えてくれるなら、ずっと待てるから。」
「ずっと?」
「ずっと。」
そんなの碌に恋人と付き合ったことのない男の妄言だって笑えればいいのに、笑えなかった。あんまりキリの声の響きが優しくて。
「お前、そんなことを言っていると一生待たすかも知れないぞ。それでもいいのかよ。」
「別にいいよ。セイになら。」
キリはあんまりあっさりとそう言った。
俺はそんなキリの言葉に息を吞んでしまった。
キリは俺の様子に気が付くことなく、言葉を続ける。
「大体、ずっと好きだったって言っただろ。俺がいつからセイのことが好きだったと思ってるんだよ。」
「え、分からない。いつからだ?」
これは俺も疑問に思っていたことだった。幼馴染でこいつのことなら何でも知っていると思っていたのに、気が付いたら恋愛感情を向けられていた。
その所為で多分無神経なことを沢山してしまったんだろうし、せめて何時から惚れられていたのかぐらいは知りたい。
「それは、お前には秘密だ。」
「なんだよ。」
俺は拍子抜けして力が抜けてしまった。
そんな俺に畳みかけるように、キリはこう甘く囁いたのだった。
「今まで一緒に過ごした時間を振り返れば分かるかもな。そうやって、もっと俺のことを考えろよ。」
こうして俺とキリの通話は終わったのだった。
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