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都合のいい男と地味な幼馴染part3
セイが俺のことを真剣に考えてくれるなら、ずっと待てるから
「あああああ。」
「そこ、うるさい!静かに出来ないなら、教室から出て行きなさい!」
「すいません!静かに出来ます!単位欲しいです!」
慌てて授業をしていた助教授に、俺は慌てて返事をした。
そう。今は大学の講義に出ている真っ最中だ。
この先生は割と厳しい方だからきちんと話を聞かなくてはいけないのに…。
あの時のキリの優しい声が耳元を離れない。
うう。キリの奴、地味顔の癖にあんなセリフを言うとは!
今までまともに恋人がいたことがない癖に!
ああ、俺がキリのことを振ったら、あいつは他の奴に同じような言葉を言うのかな。そう、俺みたいな奴じゃなくて、キリと同じようなまともな男に優しく囁いて、二人で暖かい時間を過ごしたりして…。
なんか考えるだけで落ち込んできた。
いや、待て。なんか俺、キリに惚れかけてない?
嘘だろ!?
知り合いにはハイスペイケメン以外には眼中にないと言われた俺が?!
そんな風に悶々と考えている内に、気が付いたら授業は終わっていた。
「ねえ、どうしたの?なんかあったわけ?」
「いや、何も。ちょっと朝見た夢を思い出しただけ。」
同じ授業に出ていた奴にそう聞かれて、出来るだけ何でもなさそうな顔を装って適当に答えながら、俺は考え続けていた。
まあ、キリが俺を落としたいと思っているなら、告白を待っているだけじゃなくて、なんか仕掛けてくるだろ。何処かに遊びに行こうってデートに誘ってくるとか色々。
しかし、キリから何の音沙汰もないまま、そのまま半月が過ぎた。
デートの誘いどころか、電話も掛けて来ない。
え?何、これ?ひょっとして、焦らしプレイって奴?
キリの癖にこんな高度な作戦を仕掛けてくるとは…。
俺はまんまとその罠に引っ掛かって、お前のことで頭が一杯だよ。
そんなことを考えていると、「よお!」と鈴川が声を掛けて来た。
その声は明るい。
まあ、まだ完全には立ち直ってなくても、他人の前では明るく振舞うことが出来るぐらいには回復出来たようだ。
「この前はサンキューな!奢ってもらっちゃって。」
「あんなの別に大したことじゃないだろ。」
「お前が振られた時は、俺が奢ってやるから!」
「不吉なことを言うなよ。」
そんな風に鈴川とじゃれ合う。
こいつと話すのはいい気分転換になった。
「そういえば、お前の幼馴染、バイト先でずっと欠勤しているけれど、大丈夫なのか?」
「え、そんなの初めて聞いた。一体、どうして。」
そう言えば、鈴川は塾講師のバイトをしていて、キリも同じ所で働いているんだっけ。それが分かった時は、世間って思ったよりも狭いなって一緒に笑った記憶がある。
「いや、酷い風邪をこじらせたとかなんとか。確か、あいつは一人暮らしだったし、ヤバいんじゃない?」
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