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「なんで来たって…。俺が見舞いに来たら駄目だったのかよ!鈴川からお前が風邪を引いてバイトを休んでいるって聞いて心配したのに!」
俺がそう言ってキリに見舞いの品を詰め込んだスーパーの袋を押し付けたら、困った顔をしながらも受け取ってくれたので少しホッとした。
「ありがとう。助かった。でも、今日は一旦帰ってくれ。」
そう言って、キリは気まずそうな顔をして、自分の部屋を一瞬振り向いたので、俺はピンと来てしまった。
「中に俺に見られたら困る男でもいるのかよ。ずっと待っているなんて言った癖に。キリの嘘付き!」
まだキリは風邪を引いている。玄関先で押し問答をしていたら、余計に体調を悪化させてしまうかも知れない。だから、こんなことはやったら駄目だ。
そう、心の中では思っているのに口は止まらなかった。
「のこのこと邪魔をしに来て悪かったな。俺はもう帰るわ。」
そう言って立ち去ろうとした俺の腕をキリが掴んだ。
「待って。待ってくれ。部屋の中には誰もない。変な誤解をするなよ。」
そうキリは言って観念したという表情で、俺を部屋の中に招き入れた。
そして、そのキリのアパートの部屋の中は…。
ゴミだらけだった。
俺はキリが部屋に入れたがらなかった理由を悟ってしまい、内心頭を抱えた。
「恋愛の脳で本当に悪い。まさか、こんなことになってたなんて。」
あの綺麗好きでいつ遊びに行っても、きちんと部屋が整理整頓されていたキリがここまで部屋を荒らすなんて…。
そういや、こいつが1人暮らしをしてから、体調を崩したのはこれが初めてだっけ?そもそもキリは昔から健康優良児で、滅多に風邪とか引かなかったし。
「ただでさえ、俺はお前の好みじゃないんだから、カッコ悪い所を見せたくなかったんだよ。」
キリは顔を歪めてそう言った。
その真剣な眼差しに俺はドキッとした。
しかし、気分が悪くなったのかキリが転びそうになったことで、その甘い気持ちは泡のように消えて、俺は慌てて支えに回った。
体が熱い。
これは熱があるのでは?
「このままベッドまで行こう。支えるから。」
「悪いな。汗臭いだろ。」
「風邪なんだから仕方がないだろ。」
そう言い合いながらどうにかキリをベッドに連れて行くことに成功した。
横になったキリに布団を掛けて、俺は一段落したと少しホッとした。
しかし、キリは閉じていた目を開けて、こう言った。
「なあ、セイ。こういう風に自分に気があるって、知っている男の部屋に警戒心ゼロで入って二人だけになるのは止めろよ。危ないだろ。」
それを俺は鼻で笑った。
「何を今更。お前とは散々この部屋で二人だけになっただろ。それに俺だって、こんなことは誰にでもしているわけじゃない。こんな風に大量の見舞いの品を持って来て、部屋の中まで入ったのは、お前だからやってるんだ。」
すると、キリは「期待しそう…。」と呟いて眠ってしまった。
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