都合のいい男と地味な幼馴染part3

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俺は風邪で弱っているキリをこのまま放っておく気にもなれず、出来るだけ起こさないように気を付けながら、部屋の中の掃除をし始めた。 こういう風に他人の部屋の掃除をするのは、元カレ達にしていたおかげで慣れていた。男の一人暮らしって大体部屋の中は汚くなるものだし、キリは気にしていたようだったが、これぐらい何てこと無かった。 部屋に落ちていたゴミをビニール袋の中にまとめて、本当だったら掃除機も掛けたかったが音が出てしまうので断念した。そして、少し迷ったが長い間換気をしていなかったようだったので、少しだけ窓を開ける。 キリが寒がったら即閉めようと思ったが特に反応はなかった。まあ、具合が悪くならないか心配だったから、ある程度空気が入れ替わった所で、さっさと閉めた。 ふと視線を下すと、キリが置いたのであろう、俺が持ってきた見舞いの品が詰まったスーパーの袋が目に入った。 そう言えば、こいつの存在を忘れていた。 俺は慌てて冷やさなくちゃ駄目な奴を取り出して、そのまま入れようとして冷蔵庫を開くと、中には碌なものが入っていなかった。 あったのはビールの勘とぶよぶよになったトマトぐらい。俺は黙ってトマトを捨てると、冷蔵庫に冷やさなくちゃいけない見舞いの品を入れた。 そのままキリに買って来たリンゴを剝き始める。それから、後で胃に優しそうなスープも作ろう。 そんな風にドタバタと動いていたら、結構な時間が経っていたらしい。 キリが目を覚ました。 「あー。なんか良い匂いがする。あれ、セイ?」 「そう。お前の幼馴染の清次郎だよ。悪いかと思ったけれど、勝手に掃除したぞ。後、冷蔵庫の中に腐ったトマトがあったから、それは捨てた。後は、リンゴを剥いた奴が冷蔵庫に入っている。後はスープも作ったから。」 そこまで言ってから、ふと我に返った。 「ごめん。幾らなんでも世話を焼き過ぎ?ウザかった?」 一気に目の前が暗くなる。 あーあ。俺のこういう所、元カレ達には散々ウザいとか言われたんだっけ。 もし、キリにそんな風に言われたら…。 そんな俺の思考を一瞬で打ち破ってくれたのは、キリの言葉だった。 「そんなわけない。本当はセイにはこんなダサい所を見せたくなかったけれど。でも、すごい助かったよ。風邪で寝込んでいた時は、このゴミだらけの部屋でこのまま餓死するんじゃないかと思っていたから。」 そう言ってキリは俺の肩を慰めるみたいに叩いてくれた。 俺はずっとキリはしっかりした奴だと思っていたし、面倒を見られることはあっても、その逆はあまりなかった。だから、心のどこかで一緒にいて楽しいけれど、こいつに俺が出来ることがあんまりないんじゃないかと思っていたんだけれど。 それは間違っていたのかも知れない。 そんな風に心の中で思った。
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