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「それじゃあ、もう帰るわ。」
そう言うとキリは顔を上げて、驚いたような顔をした。
「もう行くのか。」
「ああ。後で俺が風邪を引いたら、キリが落ち込みそうだし。」
俺がふざけながらそう言うと、キリは真面目な顔をして確かにと言った。
その時、こいつのこういう真面目で優しい所が好きだと思って、胸がキュッと締め付けられたような気がした。
そう。俺はキリが好きになっていた。
こんなにも呆気なく。
でも、それとキリと付き合いたいと思うかどうかは別問題だ。
付き合って上手く行くかどうかも分からないし、今は先のことなんて考えずに、恋愛初期のふわふわした気持ちに浸っていたかった。
「なあ、セイ。俺が元気になったら何処かに行こうよ。」
「何処かって?」
「普段は絶対に見ないようなラブロマンスでも観に映画館でも行くか?」
「デートじゃん!」
そうはしゃいで俺が言うと、セイは顔を赤くした。
「そうだ。デートだよ。悪いな。気の利いた所に連れて行けなくて。こっちは慣れてないんだ。」
そう不貞腐れたように言うセイに、一瞬キスしたいと言う衝動に駆られた。
でも、駄目だ。
大事な幼馴染に簡単にそんなことをするわけにはいかない。
「まあ、俺は何処でもいいけれど。気にしているなら、何処か良さそうな場所を調べて誘えよ。」
「わかった!絶対に喜びそうな所を探してやる。」
そう会話したのを最後に、俺は「もうそろそろ本気で帰るわ。」と言って、セイの部屋を後にしたのだった。
もう外は暗くなっているし、季節は冬だから肌寒い。
でも、俺は少しもそんなことは気にならず、足早に駅へと急いだのだった。
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