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都合のいい男の帰郷
俺はもうキリが元気になったのに、あいつとデート出来ていなかった。
何故なら、俺の親父が趣味のスキーで事故が起きて入院したとかで、一旦田舎に帰ることになったからだよ!あー、本当なら今頃、キリと初デートをしていたかも知れないのに。
俺が田舎に一時的に変えることが決定したのを知った時、キリは本気で心配そうな表情で「大丈夫なのか?」と聞いてきた。あいつはウチの両親の仲が冷め切っていて、それに俺が苦々しい気持ちを持っている事を知っていたからだ。
そう、ウチの父親と母親は仲が悪い。もう俺が物心付いた頃には悪かったように思う。でも、それぞれ俺達子供に対する愛情はあるみたいだったから、憎めなかった。
「えーと、10号室。ここか。」
俺が田舎に帰り、親父が入院している病室の部屋まで辿り着くと、急にがらりと扉が開いて中から人が出て来た。
「お、清次郎君か。すっかり大きくなったね。あいつは中にいるから会ってやってくれ。」
それは親父の幼馴染である山島さんだった。親父はこの人と凄く仲が良くて、俺も小さい頃に遊んでもらったことがある。
俺が山島さんにお久しぶりですとか適当な事を言うと、向こうは用事があったのか、元気そうでなによりだ。それじゃあ、もう行くからと言って行ってしまった。
そうして、俺が病室に入るとベッドの上に親父が寝ていた。足はギブスが付いているが思ったより元気そうで、顔の血色がいい。親父は俺に気が付くと、嬉しそうにニコリと笑った。
「おお!清次郎。態々、帰って来てくれたのか!どうだ。大学では上手くやっているのか。」
「ああ、上手くやっているよ。」
そう返事をしながら、俺の顔は親父にそっくりだなとしみじみ思った。
これは俺だけがそう思っているんじゃなくて、周りからもよく言われていた。
さっきの親父の幼馴染の山島さんにだって、「清次郎君は君のお父さんの若い頃にそっくりだな。きっと大きくなったら、あいつみたいな大人になるよ。」なんて言われたことがあった位だ。
「母さんは?」
「ここには一度も来た事はないよ。まあ、仕方がないけれどね。」
親父は急に顔を曇らせてそんなことを言った。
今なら親父と俺以外に誰もいない。
怪我人に聞くのは酷かとも思ったが、以前から疑問に思っていた事を聞いてみることにした。
「なあ、親父はどうして母さんと別れないわけ?母さんは親父が色々と尽くしているのに冷たい態度を取って、酷いと思わないのかよ。」
「それは仕方がないことなんだ。」
親父はそう言うと、清次郎も大人になったし、きちんと話すかと言って、話を続けた。
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