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「父さんは今まで好きになった人に尽くして、初めは相手は喜んでくれるけれど、段々と冷たい態度を取られるようになるのを繰り返しているんだ。母さんも初めは優しくしてくれたんだけどね。」
「離婚したいとか思わないわけ?」
俺がそう言うと親父は首を振った。
「俺は寂しいのはどうにも駄目でね。お前たちも可愛いし、大事にされなくても、1人で生きていくよりはマシだ。それに一旦、好きになった人に捨てられたくないんだよ。他の女の人を見つけても、どうせ同じことの繰り返しだしね。」
淡々と俺に向かってそう言う親父に吐き気が込みあげて来た。でも、どうにか喉元までせり上がって来た暴言を呑み込んで、どうにかこう言った。
「同じことの繰り返しって…。そんなことないんじゃないのか。だって、山島さんとはずっと仲がいいじゃん。」
「あいつは幼馴染だから特別だよ。男女の仲とは違って、ずっと仲良くいられる。あんな風な関係を作れる相手と結婚することが出来たら、寂しくなかったんだけどな。」
そこまで聞いて俺は限界に達して、親父に「もうそろそろ俺は行くわ。」と声を掛けて、病室の外に出て行った。後ろから、清次郎と呼びかけられた気がしたが無視した。
今まであまり気が付かなかったが、親父は俺と外見だけじゃなくて、人との関わり方もよく似ていた。堪らなくなって駆け出したくなったのを病院の中だから、我慢してゆっくりと歩く。
そもまま実家に帰る気もしなくて、ぶらぶらと病院から離れた場所にある海辺まで歩いて行って、そこに座り込んだ。
すると、スマホの着信音が鳴った。
キリからの電話だった。
「よお。セイ、今話せるか?」
「ああ。」
そう言った俺の声は掠れていた。
これではキリに何かあったのかと気が付かれてしまうかも知れない。
そう思った一瞬後にキリは、「なにかあったのか。」と聞いてきた。
「凄いな。キリ、エスパーかよ。」
「まあ、惚れた相手の事だからな。俺でよかったら話を聞くぞ。」
ちょっと笑い混じりに優しい声で、キリにそう言われて心配させないように適当な嘘を言おうかと思っていた気持ちが壊れた。
「なあ、キリ。親父と話したんだけどさ。」
「うん。」
優しいキリの相槌に気持ちが解けて行く。
「ほら、ウチの親ってずっと仲が悪かったじゃん。それで、離婚したいと思わないのかって聞いたら、なんて言ったと思う?」
「なんて言ったんだ。」
「どうせ同じことの繰り返しになるからいいって。一人で生きていくよりは、母さんに冷たい態度を取られながら、一緒にやって行く方がマシなんだって。親父がそんな風に他人を自分の寂しさを紛らわせる為の道具扱いをしてたなんて…。」
どうしてウチの親は他の家のお父さんやお母さんみたいに仲良くないんだろう。そんな風に悩んでいた子供時代を思い出して、俺は涙が滲んできた。
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