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「あー。マジで教職課程の授業、面倒くさい。まあ、将来教師になりたいから仕方がないんだけれど。」
「そう言えば、将来キリは教師になりたいんだっけ。ちゃんと考えているなんて立派じゃん。」
俺なんて何にも考えていないからね。あーあ。就職して働くのとか嫌だし、どこかのイケメン御曹司がヒモとして養ってくれないかなとか考えている俺とは大違いだ。
そう言えば、高校の頃は女子に「付き合うならあんただけれど、結婚するなら鴨田君かな。だって、地味だけれどしっかりしているし。」なんて言われたっけ。
まあ、女子からの評判なんてどうでもいいけれど、なんか落ち込む。そんな俺を見抜いたのかキリが慌てて、口を開いた。
「そんな凄いもんじゃないって。ほら、俺が中々クラスに馴染めなかったりした時に、担任の先生にフォローしてもらったこともあっただろ。俺もあんな風に困っている子供を助けてやりたいなと思っただけだよ。」
「すごい立派だよ。立派過ぎる。将来、大臣とかになれるよ。」
「いや、俺がなりたいのは教師なんだけれど。」
ああ。キリの輝きで溶けてしまいそうになる。将来、ヒモになりたいなんて人生舐めたことを考えていて、本当にすみませんでした。でも、俺は本気で働きたい職業とかないんだよな。専業主夫をやっている親父に似たのか。
「ほ、ほら、セイって料理が滅茶滅茶上手じゃん。ほら、このつまみに作ってくれた唐揚げ、すごい美味しい!」
キリが俺をフォローする為か、作った唐揚げをひょいひょいと食べながら、一生懸命褒めてくれる。しかし、俺はその唐揚げで思い出したくもなかった3人前の元カレのことを思い出してしまった。
「ああ、それ大学に入ったばかりの頃に付き合ってた男の好物だったんだよな。だから、まあまあ上手く作れるわけ。」
「ああ、あのスポーツマンで金持ちの一人息子だった奴?」
「そう。」
そう。確か、あいつはキリにも会わせたことがあったっけ。あの男爽やかそうな顔をしてたのに嫉妬深くて、「あの地味な幼馴染くんと浮気しているんじゃないの?」なんてちょくちょく言ってきて、軽く喧嘩になったことも何回かある。
それでも、俺はそれなりにあいつのことが好きだった。あの男が家庭の味に飢えているとか言いやがるから、向こうの好物とかを陰でこっそり練習してよく作ってやるぐらいには。
でも、あいつは俺に尽くされるのに慣れて行って、次第に扱ってくるようになった。他の元カレたちみたいに。
「なんであのスポーツマンとは別れたんだっけ?」
「いやー。なんか俺の作った料理を食べないで捨てられることが多くなって、それでカチンと来ちゃったんだよね。まあ、向こうにしたら重かったのかな。」
本当はそれだけじゃない。あの男は陰で取り巻きに「あいつは俺の無料家政婦だから。」なんて言い触らしていたし、親の伝手で知り合ったモデルの男と浮気をしていた。こんなことはキリには言えない。
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