都合のいい男と元カレ

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都合のいい男と元カレ

誰もいない静まり返った俺の部屋に、急にスマホの着信音が鳴り響いた。 キリからの電話だった。 俺が取ろうかどうしようか迷っている内に、その電話は切れてしまった。 それに思わず、ホッとしてしまった。 一体、なにを話していいか分からなかったからだ。 あー。体がだるい。でも、午後から出なくちゃいけない講義があるんだよな。 元々、あの講義には欠席しがちだったし、単位を落とさない為にも出ないとダメだろ。 それに、キリは別の大学に通っていて、校内で会う可能性もない。 俺はノロノロと体を動かして、冷蔵庫にあったミネラルウォーターを飲むとシャワーを浴びることにした。 大学の教室ではジジイの教授がしわがれた声で退屈な授業をしている。 俺はそれをBGMにしながら、ずっとキリのことを考えていた。 あいつは何時から俺のことが好きだったんだろ? 全然気が付かなかった。 確か、確か、そうキリはずっとって言ってた。 え? 俺が歴代元カレの惚気を長い時間聞かせていた頃も好かれていたりする? それだけじゃなくて、別れて傷ついた時は散々慰めてもらった上に、あいつの狭いアパートの部屋に寝泊まりとかしてたんだけれど。 うわー。俺って最低。すごい無神経な奴じゃん。 同じことをされたら耐えられる自信はないわ。 でも、これって謝れば解決できる問題じゃないよな。 これからあいつとどうするか考えないと…。 いや、昨日アパートから逃げて行った俺を見て、キリの気持ちが冷めた可能性もあるよな。 そんなことを考えている内に、気が付けば講義は終了していた。 その日、出なくちゃいけない講義はそれだけだったが、遊ぶ気にもなれず、 マンションの自分の部屋に戻って寝ようかと思って大学の外に出た瞬間だった。 「よお。清次郎。久しぶりだな。」 先月別れたばかりの男が立っていて、声を掛けて来たのである。 俺はギョッとした。 「宗助!なんでこんな所にいるんだ!」 反射的にそう怒鳴ってしまってから、我に返って辺りを見回した。 こっちを見ている人たちが何人かいる。 話があるという宗助と修羅場になって、これ以上注目を浴びるのは冗談じゃなかった。 「人目のない場所に行こう。ここじゃ、目立ちすぎる。」 俺がそう言うと宗助は「ああ。」と言って、嬉しそうに笑った。 整い過ぎていて近寄りがたい顔が一気に子供っぽくなる。 そんな宗助の笑顔が俺は好きだった。 付き合っていた頃の気持ちが一瞬蘇って、俺は胸が痛くなった。 連れて行かれた先はちょっと高めの個室のレストランだった。 もうどうでもよくなっていた俺は、それに黙って付いて行った。
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