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そういうわけで、俺は宗助と一緒にステーキを食べていた。
何故、ステーキかって?
こいつ、響谷宗助が勝手に「お前、ステーキが好きだったろ?一緒に食おうぜ。」なんて言って勝手に注文したからだ。
まあ、ここは宗助が奢ってくれるらしいから別にいいけれど。
俺はぼんやりと宗助の顔を見ながら、碌に味も分からずステーキを食べる。
こいつは今話題になっているバンドのギタリストで、結構多くのファンもいる。そして、そのバンドメンバーの内の一人の男と浮気をしたことが決定打になって、俺と別れたのだ。
そんな酷い別れ方をしたのに、こうやってのこのこと着いて来てしまったのは、俺はこいつにまだ未練があるかも知れない。
そんな風にセンチメンタルな気持ちになっていると、
急に宗助が「何だ。そんなに俺の顔を見詰めて。見惚れてんの?」
と言って来た。
「今更、見惚れるわけないだろ!」
慌てて俺が言い返しても、宗助は焦りもしない。
それどころかへらへら笑って、
「清次郎って俺に一目惚れだったから無理もないな。まあ、誘ったのはこっちだし、好きに見てもいいぜ。」なんて言って来た。
俺はむっつりと黙り込んで、残っていたステーキを口の中に掻き込んだ。
悔しいのは宗助に一目惚れをしたっていうのが本当だということだ。
はっきり言って、宗助の顔はすごい俺好みだった。
この顔のせいで多少上から目線で雑に扱われても許してしまうぐらいに。
まあ、歴代彼氏と同じように浮気されてダメになったんだけれど。
「なあ、清次郎。お前、俺が浮気したって喚いていただろ。あれは誤解だ。」
「誤解?」
思わず、声が裏返ってしまった。
本当に宗助が浮気したのが誤解だったら俺はー。
心が波打っている俺をよそに、宗助はどんどん話を進めて行く。
「あの頃、忙しくて碌に話も聞けなかったし、その後は着信拒否していただろ。だから、イマイチよく分からないんだが、どうしてそんな誤解をしたんだ?」
「だって、お前のバンドメンバーの茶髪の男が急にやって来て、俺がしがみついているから別れられないだけで、本命は自分だって言われて…。」
本当はそれだけじゃなかった。あの男は宗助がどんな風にセックスするのが好きなのか、どこが敏感なのかも知っていた。それでこれは100%浮気されていると確信して、心が折れた俺は別れることを決めたわけだ。
それが誤解だった?
ひょっとして、男同士の猥談でそういう情報を知っていただけで、あいつの片想いだったとか?
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