都合のいい男と元カレ

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「ああ。あいつとは単なるセフレだったんだよ。それなのに本命だなんて言いやがって。お前なら許してくれるだろう?」 「許せるわけないだろ!一体、何を言っているんだ!」 俺がそう言うと宗助はきょとんとした顔をした。 その顔を見て逆に苛立ちが湧いた。 あのゴタゴタでどれだけ人が傷ついたと思っているんだ! 「セフレはセフレだろ。あいつは一緒にやっているバンドの一員で、気の合う幼馴染で親友だけれど、恋しているわけじゃない。ちょっとした性欲処理の相手なんだから、浮気としてはカウントされないだろ。」 「俺はお前が他の奴とセックスしてたってだけで充分傷ついたんだよ!」 視界がぼやけて来る。 本気で情けない。 なんでこんな男を好きだったんだろ。 すると、宗助は一気に困ったような表情をした。 こんな瞬間でさえ、嫌っていう程、こいつの顔は俺好みだった。 「泣くなよ。そんなに無理だって言うなら、あいつとの関係は終わらせるからさ。俺たち、やり直さないか。」 「やり直すって。」 俺がオウム返しをするとテーブルに置いていた手の上に、宗助が手を重ねて来た。付き合っていた頃と同じ体温と感触に、心が引き摺られそうになる。 「全部言わなきゃわかんないのか?もう一度付き合おうって事だ。」 最も俺は別れたつもりはなかったけどな。 そう続けた宗助の声がどこか遠くからのように聞こえる。 こんな奴と元鞘になっても碌なことがない。 そう分かっていながらも頷きそうになる俺を押し留めたのは、 キリの横顔であり、こいつにセフレだと吐き捨てられた男の泣き顔だった。 「無理だよ。なあ、宗助、お前がセフレって言っていた男に俺を紹介してくれたことがあったよな。」 「ああ。言っておくけれど、あの時はあいつに手は出してなかったぞ。」 今更、そんな弁解じみたことを口にする宗助に対して、こいつはなにも分かってないのだと思って酷く距離を感じた。 「その時に、そいつが言っていたんだよ。宗助は癖があって分かりにくいけれど、本当はすごく優しくて音楽の才能もある自慢の幼馴染だって。すげー目をキラキラしながらさ。」 そこで、俺は自分が奇妙なぐらい喉が渇いていることに気が付いて、水を一口だけ飲んだ。 「あんな風に慕ってくれる奴をセフレ扱いして、簡単に関係を終わらせるなんて言う奴のことなんか、信頼できるわけないだろ。」 「そうかよ。」 宗助はまるで自分の方が傷つけられたかのような顔をしていた。 付き合っていた頃だったら、いつも自信満々に見える宗助がこんな表情をしていたら、慰める為にどんな無茶だって叶えてやっただろう。 でも、もうそれは過去のことだった。
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