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「これで話はお終いだな。」
そう言って伝票を持って立ち上がろうとした(なんとなく流されてしまったが、別れた奴に奢られるわけにもいかないだろ。)俺を宗助が引き留めた。
「なあ、お前は俺のことが本気で好きだったのか?」
「好きじゃなかったら、あんなに言い寄らないだろ。」
そう。宗助には俺から必死に言い寄って、どうにか付き合ってもらったのだ。
そんな真似はどうでもいい相手には出来ない。
「その割には俺と付き合っていた頃、ちょくちょく幼馴染の話をしていたよな。確か、キリって言ったか。」
「これ、一体何の話なんだ。」
そう言った俺に、宗助は「まあ、座れよ。」と命令してきた。
無視して帰っても良かったが、相手の目がやけに真剣だったから従ってしまった。
「なあ、おかしいと思わないのか。」
「な、何が。」
宗助が怖い顔をしているので少し怯んでしまった。
「確か、近所に住んでいて小中高と一緒だったんだろ。まあ、ここまではなくはない話だが。それで、田舎に住んでいた二人が揃って都会に出て来て、1駅2駅しか離れていない場所に住んでいて四六時中遊んでいる。おまけに、相手はお前が突然泊まりに行ってもいつでも歓迎してくれる。」
そこで、宗助は短く息を吐き出して話を続けた。
「そして、清次郎、お前はそんな幼馴染をいつもベタ褒めと来た。いくら何でもベタベタし過ぎだろ。俺はお前の幼馴染のことは直に会ったことがないから何も言えない。でも、お前は本当は俺よりもそのキリって言う幼馴染の方が好きだったんじゃないか。」
宗助の顔はどこか苦しそうで、ふと俺はこの傲慢な男のことを気が付かない内に追い詰めていたんじゃないかと思った。ひょっとして、俺と付き合わなかったら同じバンドの幼馴染とセフレになるなんてことも無かったのかも知れない。
俺がなにを言ったらいいか分からず、黙りこくっていると宗助は気持ちを切り返すように大きなため息を吐くと立ち上がった。
「振った男からこんなことを聞かれてもウザいだけか。付き合わせて悪かったな。」
そう言うと宗助は俺の手から伝票を奪って、大股で立ち去ってしまった。
俺はその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
そのまま俺は自分のマンションの部屋に戻ると、速攻でベッドの上に横になった。運動したってわけじゃないのに、異様に体が疲れている。
実は俺はキリのことが無意識の内に好きになっていた?
本当に?
それで宗助のことを追い詰めていた?
ひょっとして、あいつだけじゃなくて、今まで別れて来た元カレ達のことも?
いずれにしても、ちゃんと考えなくちゃ…。
そんな風に思いながらも、俺は眠りに落ちて行った。
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