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「私はいいですよ。どうせここでアルバイトですから。って……アルバ、また里親から返されちゃったんですか?」
差し出した美知子の指先に鼻を寄せ、つまらなそうにヒゲを震わせた。
「ん……。これで五回目だな。最高記録を更新だ」
答えるのは縁の欠けたコーヒーカップを傾ける男性。
皺の目立つグレイのスタンドカラーのシャツに深緑のエプロン。
無精ひげの目立つ日に焼けた顔。店長代行の宇佐木修二。
「譲渡会を開けば、真っ先に飼いたいって希望者が殺到するのに、里子に出すとすぐに返されちゃうなんてかわいそうです」
「そうだな」
空になったカップを置いて――面倒くさそうにゆるく波打つ黒髪を無造作にかきまわす。
「アルバ。そんなにひどい悪戯でもしたの?」
足音も立てずに床に飛び降りて、美知子の足にすり寄るアルバの頭をなでてくすぐったそうに目を細めた。
「私が飼えたらいいんですけど、うちは動物禁止のアパートなんで」
「だから店で癒しを補給していくんだろ?」
「高校を卒業して部屋を借りられるようになったらこの子を引き取って一緒に暮らすの」
「どこにもお嫁にいっちゃいや」と抱き上げて頬を摺り寄せたら強烈な猫パンチが飛んできた。地味に痛い。
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