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その日の夜。
今までの習慣が抜けず、月明かりのみが照明となっているベッドで横になり、開いてしまった携帯には、勇作とのメッセージのやり取りが多数記録されていた。
試しに送っては見たものの、既読も付かず、どうやらブロックされている状況らしかった。
「……ひどいよ……」
あまり食事も喉を通らず。先ほどお風呂で人知れず涙を流し、もう枯れたかと思っていた涙も、今は再び頬を濡らしていた。
止まれと思って止まるものでもない。かと言ってこのまま泣き続ければ明日には目元が腫れているだろう、と言う思考に至るほど心に余裕もない。唯は更に布団を深くかぶり、静かに泣き続けた。
「もう、忘れたい……」
闇も深くなってきたころ、心は落ち着かなかったが体が求めていたのだろう。唯の体はゆったりと微睡みを受け入れていた。
――――
夢を、見たような気がする。
定番と言われるデートスポットに、勇作と出掛けた思い出の日々。
手を繋ぎ、口づけを交わし、高らかな胸のときめきを覚えていたあの日々の記憶。
「その辺りは、甘そうですの」
夢だろうか。幼い声が聞こえたような気がした。
景色が変わる。
教室で、彼氏と友達が口づけを交わしていた。
不機嫌そうに背を向けた彼氏と、友達だと思っていた同じ部活の女友達との、つい最近の記憶だ。
「でも、その頃はただ苦そうですの。でも、頂いてよろしいなら、その感情の記憶と時間の一部を、いただきますの」
返事は出来なかった。だが、この辛い感情をずっと残しておきたくなどなかった。
「甘さと苦さの混じった時間、そこそこおいしそうですの」
不意に頭を撫でられた感覚を受け、見えていたはずの光景が一気にぼやけていった。
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