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「だぁ! くそっ! 今日も結局負けかよ!」  やけくそで蹴り飛ばした足元の空き缶が、軽快な音を立てて別の場所へと転がった。一瞬何事かと振り向いた周囲の人々も、すぐ都会の景色と同化し、人の川の一部に戻っていた。 「ついてねぇ……」  見た目的にくすんだジャケットを羽織った男性。ひげも剃れていないのか、無造作に伸ばされたひげが口の周りを覆っている。吐く息は微かに白い顔を見せ、周囲が冷えた空気であることを、無言で主張していた。  ネオン煌めく都会の一角。すぐ傍にある建物に、緑色のジャケットを着込んだ男性が入っていく。先ほどまで男性が聞いていたパチンコの大音量が、出入り口の自動ドアが開くとともに耳に届いた。 「……完全にすっちまったな」  穴が空きそうなジャケットのポケット、ジーンズのズボンなど、あるだけのポケットを探ってみるものの、見つかったのは10円玉が3枚だけ。 「このままじゃ飯も食えねぇ……」  体はひたすら空腹を訴えていた。男性はなじみの場所に向かって歩を進めていく。運賃も無いので、当然歩いていくしかなかった。 ――――  都内にある公園の一角。火がつけられている寸胴鍋に向かって、人の列が出来ている。  周囲を見回せば、男性と似たような、決して綺麗とは言えない恰好の人もいれば、大学生だろうか、若い女性の姿もある。かと思えば、痩せこけた老人の姿もある。  列から外れた人々が揃って手に持っているのは、紙のボールと割りばしだ。暖かそうな湯気が、ボールから顔を出し、すぐにその表情を散らしていた。 「並んでくださいー! まだありますので押さないでくださいー!」  寸胴鍋の傍に立っていた女性が、列の人々に向かって声を張り上げている。  男性も、いつものように列の最後尾に並ぶ。  一人、また一人と前に進み、三十分ほどが経過したところで、ようやく男性の順番がやって来た。 「熱いので気を付けてくださいね」  無言で紙のボールと割りばしを受け取り、列から退避する。いつもの定位置であるとある木の根元に腰を下ろし、改めてボールの中身を確認した。 「今日もしけてんなぁ」  ま、タダで食わしてもらってるから文句は言えんが、と言う言葉を飲みこみ、ガツガツと温かい食事をかきこんでいく。無論量があるわけではないので、一分も立たないうちに紙ボールの中は空になった。 「昔は良かったなぁ……」  温かい食事の後数分、昔のささやかながら幸せな思い出に浸るのが、男性の食後の楽しみだ。煙草を買うお金すらない。 「……流石に明日は働くか」  改めてポケットをさぐるが、埋蔵金なるものは当然ながらない。くすんだ3つの銅の輝きを見て、いつもの公園の定位置で、男性は眠りについた。
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