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「随分、おいしそうな時間ですのね」  突如夢の中で流れていた光景が静止。誰ともつかぬ声が聞こえたような気がした。  満面の笑みを浮かべるチームメイト達の表情、悔しそうに下を向く相手チームの生徒達。写真のように突如静止した光景に、夢の中ながら不思議な感覚を覚える。 「いただきたいですの。あなたの幸せの記憶と共に」  その言葉を聞いた瞬間、出せない声を必死に張り上げていた。そんなものは許されない。絶対ダメだと心の叫びを上げる。この時の記憶だけが、今自分の唯一の誇れる証であり、自分の心の支柱なのだ。仮にこの栄光の記憶がなくなってしまったとしたら、自分はこの先どうやって生きていけばいいというのか。 「……そうですか。残念ですの」  声は聞こえなくなり、写真のように静止していた夢の中の光景が再び動き出した。審判に呼ばれ、整列し、相手チームに礼を尽くすが、心の中ではただひたすら勝利の歓喜に震えていた。  ベンチに戻り、観客席に来ていた自分の彼女を視界におさめる。まさに絶頂の時の幸せな記憶だった。 ―――― 「……夢? か?」  吹きすさぶ風に寒さを覚え、くすんだジャケットに整えられていない口周りの髭を隠すこともない男性が、公園の木陰からゆっくりと体を起こした。  自分の体を見て、かつての様なたくましい筋肉が腕についているわけでもなければ、口元をさすれば無造作に伸ばされたひげの感触。 「……むしろ、こっちが夢であってほしいもんだ……」  空を見上げる。どんよりとした表情は、これから雨をぱらつかせる予感を感じさせた。現実に引き戻された男性は、ゆっくりと腰を上げ、ポケットに手を突っ込む。 「……金は、やっぱりねぇな」  仕事を探すしかない。重い足取りで、求人情報を探すため、行きつけのコンビニへと男性は歩を進めていくのであった。
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