それから

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それから

そして、10年あまりの時が過ぎた。二人はあれから一度も会うことなく、自然消滅してしまったのであった。 しかし彩は、会わなくなってからもほとんど毎日、和也のことを思い出していた。 彼が嘘をついていた自分を責めなかったこと。悠馬の存在を知ってなお、丸ごと受け止めようとしてくれた器の大きさ。 それなのに、和也を拒絶した。彩にとって、胸がしくしくと痛む後悔の記憶であった。 実は、彼女の一番苦手なもの、それが「爬虫類、両生類」の類だったのだ。 ゴキブリよりも苦手だと言っていい。 カメレオンなど、その外見のグロテスクさから、苦手の頂点に君臨すると言ってもよかった。 あの日、和也の部屋でカメレオンを見たとき、地面がぐらりと揺れるようなショックを受けた。和也の仕事が「生物学系」の研究職であることは聞いていたが、なんの生物を研究しているのかは把握していなかった。専門的な仕事内容を聞いても理解できる気がしなかったし、和也は進んで話すことをしなかったから、敢えて聞かなかった。 もしかしたら心のどこかで「聞いてはいけない」という警鐘が鳴っていたのかも知れない。
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