プロポーズ

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「ママー!」 彩は東京郊外の一軒家に到着した。駆け寄ってくる我が子を胸に抱き締める。 初老の女性が玄関を開けて中へと促す。 「お母さん、いつもありがとう」 「いいのよ。お父さんも私も、悠馬が来てくれるのが生きがいなんだもの。ごはんは食べたの?」 うん。食べた。彩は笑顔で答えると玄関を上がる。 週に一度、残業だと偽って実家で息子の悠馬を見てもらう。若干の後ろめたさはあったが、両親とも悠馬と過ごすのを楽しみにしているので、この点に関しては敢えてノーカウントとしていた。 「ママ、お仕事、おつかれさま!」 悠馬が彩の膝にトスンと座る。その頭皮から微かに立ち上る汗の匂い。お日様のような匂いだ、と彩は思う。子供の体温は心をほぐしてくれる。でも今日は、先刻との和也との会話が思い出され、嬉しい反面、泣きたくなるような気持ちだった。
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