嘘つき

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* 高校最後の夏休みは、枚田を少しばかり感傷的にさせた。 推薦入学がほぼ確実になり、喜びのタームが過ぎると、今度は虚脱感が押し寄せてきたのだ。 平穏は悪くない。 あらゆるストレスから解放されて、自分は今、自由を味わっている。 まわりの友人が受験対策で忙しくするなか、枚田は映画を観たり、ランニングをしたりと、高校最後の休暇を満喫しようと努めた。 そうでもしなければ、平穏というプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだった。 ——その日は夕立があって、夜になっても、地面からのぼる熱気にまとわりつかれた。 濡れたアスファルトの独特なにおいが鼻をつく。 枚田はTシャツをつまんで扇ぎながら、コンビニまでの道を辿っていた。 夏休みもちょうど半分まで来たところだった。 なにげなしに街頭のあかりに気を取られていたら、白い影が横切った。 残像などではない。 その白さ、まぶしさに心当たりがあったが——枚田は咄嗟に俯き、気づかぬふりをした。 すると、気配が足音とともに近づいてきて、やがて視界に足首が入り込んでくる。 それを捉えた瞬間、自身の足の裏がじわじわと汗ばんできた。 「マイ、久々だな」 足元に向かって、ひと言落とされる。 やっぱり、州だ。 わかりきっていたのに、心の中で発した途端、髪の生え際からじわじわと汗が染み出した。 「コンビニ付き合えよ」 彼はそれだけ言うと、先に歩いていってしまう。 気配が遠のいてようやく、枚田は顔を上げることができた。 夏だというのに、州は白かった。Tシャツから出た腕もうなじもまったく日焼けをしていない。 部屋で勉強ばかりしているせいだろうか。
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