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彼と微妙に距離をあけたままコンビニまでついていくが、枚田は店には入らなかった。
なにか買い物があったはずなのに、なにを買いにきたのかすら忘れてしまった。
しばらくすると、州は小さな袋を手首から下げて戻ってきた。
「やるよ」
アイスをふたつ取り出して、そのひとつを差し出される。
「ありがとう」
枚田は短くお礼を言ってから受け取った。
州はアイスを齧りながら、腕のあたりでビニール袋を回した。アイスの他にもなにか文房具を買ったらしい。
バニラアイスクリームを覆っていたチョコレートのコーティングの破片が、アスファルトに落ちる。
「早く食べないと溶けるよ」
久々の彼を視線で追ってばかりいたら、注意を受けた。
慌てて噛むと、バニラアイスはすでに柔らかかった。
「このアイス、昔はもう少し大きかったよな」
「俺らがでかくなったからそう感じるんじゃない」
「ばか。ステルス値上げだろ。アイスが小さくなったんだよ」
彼はチョコレートコーティングをすべて剥がしてしまうと、不平を吐きながら、残りのバニラアイスを舐めた。
その舌の赤さに惑わされかけて、俯く。
「明和大に行くんだって?」
アイスをすっかり食べてしまうと、州が切り出した。
「よく知ってるね」
「うちの母親から聞いた」
おそらく、母親同士のやりとりで知ったのだろう。
枚田も、同タイミングで州が名門の野木大を受験するという情報を仕入れていた。
彼の志望校は高校に入学したときから変わっていなかったから、特に意外性はなかった。
「なんで明和にしたの?」
枚田は言葉に詰まり、アイスの棒を前歯で噛み締めた。
なんでと言われても困る。州のような人間を前に、もっともらしい理由など、いくら探したって出てきやしないのだ。
「推薦取れそうだし、家からも近いから……」
それに対し、彼は何も言わなかった。
志望動機があまりにも単純で、呆れられたのだろうか。
「州?」
州は身を翻すと、さっさと先に歩いていってしまった。
歩幅を広く取り、なんとかして追いつく。
近くでみると、彼が怒っているのが、肩の震え方でわかった。
「マイはやっぱり嘘つきだな」
枚田は、彼のその発言に心当たりがあった。
だが、お互いにもう子どもじゃない。現実を直視してもらいたくて、枚田はわざと惚けることにした。
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