嘘つき

3/4
前へ
/193ページ
次へ
彼と微妙に距離をあけたままコンビニまでついていくが、枚田は店には入らなかった。 なにか買い物があったはずなのに、なにを買いにきたのかすら忘れてしまった。 しばらくすると、州は小さな袋を手首から下げて戻ってきた。 「やるよ」 アイスをふたつ取り出して、そのひとつを差し出される。 「ありがとう」 枚田は短くお礼を言ってから受け取った。 州はアイスを齧りながら、腕のあたりでビニール袋を回した。アイスの他にもなにか文房具を買ったらしい。 バニラアイスクリームを覆っていたチョコレートのコーティングの破片が、アスファルトに落ちる。 「早く食べないと溶けるよ」 久々の彼を視線で追ってばかりいたら、注意を受けた。 慌てて噛むと、バニラアイスはすでに柔らかかった。 「このアイス、昔はもう少し大きかったよな」 「俺らがでかくなったからそう感じるんじゃない」 「ばか。ステルス値上げだろ。アイスが小さくなったんだよ」 彼はチョコレートコーティングをすべて剥がしてしまうと、不平を吐きながら、残りのバニラアイスを舐めた。 その舌の赤さに惑わされかけて、俯く。 「明和(めいわ)大に行くんだって?」 アイスをすっかり食べてしまうと、州が切り出した。 「よく知ってるね」 「うちの母親から聞いた」 おそらく、母親同士のやりとりで知ったのだろう。 枚田も、同タイミングで州が名門の野木(のぎ)大を受験するという情報を仕入れていた。 彼の志望校は高校に入学したときから変わっていなかったから、特に意外性はなかった。 「なんで明和にしたの?」 枚田は言葉に詰まり、アイスの棒を前歯で噛み締めた。 なんでと言われても困る。州のような人間を前に、もっともらしい理由など、いくら探したって出てきやしないのだ。 「推薦取れそうだし、家からも近いから……」 それに対し、彼は何も言わなかった。 志望動機があまりにも単純で、呆れられたのだろうか。 「州?」 州は身を翻すと、さっさと先に歩いていってしまった。 歩幅を広く取り、なんとかして追いつく。 近くでみると、彼が怒っているのが、肩の震え方でわかった。 「マイはやっぱり嘘つきだな」 枚田は、彼のその発言に心当たりがあった。 だが、お互いにもう子どもじゃない。現実を直視してもらいたくて、枚田はわざと惚けることにした。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

427人が本棚に入れています
本棚に追加