夕方の彼

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夕方の彼

秋になると、枚田の進路は早々に確定した。 州とはあれ以来会っていない。もしかしたら彼の宣言通り、本当に終わったのかもしれない。 もちろん、州との関係に未練がないわけではなかった。だがこの時、枚田はすでに疲れ切っていたのである。 たびたび思い返して気持ちを揺さぶられることにも、自問自答することにも———— その頃になると、枚田と同じように推薦で入学が決まったり、専門学校に進路を決めたクラスメイトも出てきて、放課後や休日は、彼らと共に過ごすことが多くなった。 そのうちの1人である柿木(かきのき)という女性と親しくなり、遊びや学校からの帰宅を共にすることが増えた。 そして、どうやら好意を持たれているらしいことにも——うっすらと気づいてはいた。 柿木は感情が表に出やすく、性格も素直で大変付き合いやすかった。沈黙があると先に埋めてくれたし、なにかと気を配ってくれる。 そんな彼女に対して、正直、燃えたぎるような感情はまったくなかった。 しかし、ずっと満たされなかった一部を、勝手に埋めてもらうことへの安らぎは、枚田にとって価値の高いものだった。 一緒にいると楽な存在という意味を生まれて初めて知り、早稲田萌のときよりもはるかにスムーズに、彼女とのこの先を予想することができた。 しかし、そうやって枚田がぼんやりと日常に浸りかけた時——行路に立ちはだかるのが、州という人間だった。 ふと思い出すのは、彼からもらった最後の一言だ。 マイは、楽なほうにすぐ流されるから—— あの時は自覚していなかったが、結果、皮肉にも彼の言う通りになっている。 それにもしかしたら、今までもずっと、無意識のうちに彼を裏切り続けてきたのかもしれない。 自分の正義を彼の正義に無理やりはめ込み、ずれに気づかないまま———— それを自覚するたび、まるで階段を一段ずつ降りていくようにひっそりと絶望するのだった。
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