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駅で会ってから、枚田は何度か州に連絡を取ろうか迷った。
しかし、いくつか考えた案の
元気?
受験頑張ってね
この前、気づいてた?
そのどれもがしっくり来ずに、結局は先送りになってしまった。
柿木は事あるごとにバレンタインの念押しをしてきた。終始うわの空である枚田を不安視しているのだろうか。
彼女との約束を破るつもりはないが、答えを出すほどの余裕は、今の自分には残されていない。こんな中途半端な気持ちのままバレンタインを迎えたら、さすがに呆れられそうだ————
憂慮しながら、とうとう当日になってしまった。
彼女とは放課後に遊ぶ約束をしている。朝、教室に入るとさっそく目配せされた。
どこか浮き立った教室内の雰囲気も手伝って、気が重くなる。
ホームルームまでこのまま手ぶらでいたら柿木が席までやってきそうなので、枚田はスマートフォンを取り出した。
何気なく目にした通知画面の、ニューヨーク州のアイコンに——指先が震える。
「今日の放課後、遊ぼうよ」
久々にも関わらず、唐突な誘いだった。
手に汗が滲み、液晶が滑る。
彼はあの時、やはり気づいていた。そして、自分達の会話を聞いていたのだ。
入試まであと二週間を切ったタイミングで、彼があえてこれを送ってくる意味——考えかけて、思考を止めた。
「ごめん。先約があるから無理」
なんとか打って、送信する。
それから間もなくしてホームルームが始まり、スマートフォンを鞄の中にしまった。
彼からは昼休みの後に
「わかった」
たった一言、返信が来ただけだった。
迷ったが、それに対して返信はしなかった。きっとこれでいい。一区切りつけるタイミングだったのだ。
しかし、頭ではわかっていても、心はずっと持っていかれたままだった。
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