夕方の彼

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✳︎ 駅で会ってから、枚田は何度か州に連絡を取ろうか迷った。 しかし、いくつか考えた案の 元気? 受験頑張ってね この前、気づいてた? そのどれもがしっくり来ずに、結局は先送りになってしまった。 柿木は事あるごとにバレンタインの念押しをしてきた。終始うわの空である枚田を不安視しているのだろうか。 彼女との約束を破るつもりはないが、答えを出すほどの余裕は、今の自分には残されていない。こんな中途半端な気持ちのままバレンタインを迎えたら、さすがに呆れられそうだ———— 憂慮しながら、とうとう当日になってしまった。 彼女とは放課後に遊ぶ約束をしている。朝、教室に入るとさっそく目配せされた。 どこか浮き立った教室内の雰囲気も手伝って、気が重くなる。 ホームルームまでこのまま手ぶらでいたら柿木が席までやってきそうなので、枚田はスマートフォンを取り出した。 何気なく目にした通知画面の、ニューヨーク州のアイコンに——指先が震える。 「今日の放課後、遊ぼうよ」 久々にも関わらず、唐突な誘いだった。 手に汗が滲み、液晶が滑る。 彼はあの時、やはり気づいていた。そして、自分達の会話を聞いていたのだ。 入試まであと二週間を切ったタイミングで、彼があえてこれを送ってくる意味——考えかけて、思考を止めた。 「ごめん。先約があるから無理」 なんとか打って、送信する。 それから間もなくしてホームルームが始まり、スマートフォンを鞄の中にしまった。 彼からは昼休みの後に 「わかった」 たった一言、返信が来ただけだった。 迷ったが、それに対して返信はしなかった。きっとこれでいい。一区切りつけるタイミングだったのだ。 しかし、頭ではわかっていても、心はずっと持っていかれたままだった。
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