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アンフェア
朝の白い光を、瞼の隙間からゆっくりと受け入れる。
視界が定まるまでの薄ぼんやりとした世界のなかで、枚田は昨日の一部始終を思い返していた。
瞬きをし、枕元をまさぐり、スマートフォンのありかを探る。
メッセージアプリのアイコンには、受信を知らせるマークがついていた。
起き上がりアプリを起動してみて、それからため息を吐いた。
メッセージは映水からだった。
それに目を通すよりも先に、枚田は昨日、州に送ったメッセージ画面を開いた。
久しぶり。今日、環と会いました。みんな心配してるから、これを見たら連絡ください。
打っては消してを繰り返したのち、ようやく送信した一文。
しかし、既読マークすらついていない。
もう大人であるし、環の言うように身の危険に晒されているわけではないだろう。おそらくは、返信できる環境にありながら、あえて無視しているのだ。
それだけで枚田は、誠意を踏みにじられたような、どこか小馬鹿にされているような——疼くような屈辱を味わうのだった。
そもそも本当にこちらの気を引きたいのだろうか。環はああ言っていたが、実はもう——
突発的な怒りが引くと、あとはただ、なにかが萎んでいく。
このゆっくりと落下していくような心地が、なんだか懐かしい。
州のことを思う時はいつもそうだった。
離れているときも、ふたりでいるときも。
——洲とは幼なじみだったが、それは決して純粋な絆ではなかったと、枚田は自覚している。
大学生になってから同居した時もそうだ。長らくの友情がついに愛情に変わったという、単純で綺麗なものでもなかった。
物理的な変化はあれど、互いが内に秘めたものは、幼いころからそう変わらなかった気がするのだ。
愛憎や依存、執着の混ざり合う、奇妙な間柄。彼から逃げたい、目を逸らしたいと思ったことだって、一度や二度じゃない。
それでも、あの涼しげな目で捕らわれると、結局は吸い寄せられるように元の鞘に収まってしまった。
まあ結局は、その鞘も、州が一方的に塞いでしまったのだけれど。
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