便り

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便り

春を迎え、枚田は大学生になった。 州は進学を機に家を出たらしい。第一志望の野木に無事合格したことも、母親を通じて知った。 彼とはあれから本当に疎遠になった。 しかし、仕方のないことだとも思う。彼のレールは偶然、枚田の隣に敷かれていただけであり、そもそも進路は違ったのだ。 遅かれ早かれ、分岐して離れていく運命だった。枚田の決心により、そのタイミングが2ヶ月ばかり早まっただけで、長い人生で見てみれば、概ね予定通りであるに違いなかった。 ——枚田はテニスサークルに入り、遊び程度のテニスと飲み会を繰り返した。 そして試験を挟むと、あっという間に夏がきて、テニスが海に、飲み会がバーベキューやビアガーデンに変わった。 秋が来ると、最初のころの高揚感も薄れ始め、今後の学生生活をなんとなく憂いた。 きっとこのまま、飲み会とテニスを繰り返して4年が過ぎるのだろうな—— 先輩に何気なく漏らしたとき「それのなにが悪い」と返されたが、そう言われればそうで、返す言葉もなかった。 たしかに悪くはない。からっぽな自分にはお似合いだ。 ——この間、枚田はふたりの女性から言い寄られた。 ひとりはテニスサークルの先輩、もうひとりはバイト先の居酒屋で知り合った女の子だった。 自分はどうやら、世間一般的に見ると、人並みの容姿であるらしい。 昔からゴリラだのぶさいくだのと言われてきたせいか、女性たちからの予期せぬ好評価に戸惑う。そして、そのたびにふと州の顔がよぎって、気持ちが暗くなった。 州という存在は、もう持病のようなものなのかもしれないと、枚田は思う。 体調を崩すと疼き出し、思いだす間はふと気持ちが暗くなる。 体に埋まったまま、根治することのないなにか。 明るく振る舞った飲み会の帰り、ふと気が沈むというリズムを繰り返しながら、枚田は日々を過ごしていた。 ふたりの女性とは結局、進展することのないままクリスマスを迎えようとしていたとき、思いがけない形で州から便りがきたのだった。
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