αならよかった

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「そんなこと言うなよ……」 「いくら努力しても、この体のせいでぶち壊しなんだよ」 「俺は、州のその体が好きだよ」 我ながら変なフォローの入れ方だと思ったが、彼は笑わなかった。 それどころか、睨みつけてくる。 「じゃあ、お前の体と取り替えろよ」 州にしてはずいぶんと子どもじみた当てつけだと思った。 黙ったまま背中をさすると、彼は苛立ちを握りこぶしのなかに丸めて、胸に打ち付けてきた。 癇癪にも似たそれを、枚田はただただ受け止め、彼の感情が平らになるのを待った。 しかし、枚田が落ち着きはらうほど、彼の怒りは強くなっていく。 「全部マイが悪い。お前が嘘つきだから——」 「州」 思わず両手首を掴むと、州はそれを振り解こうとした。 しばらく揉み合いになったのち、ふたりしてベッドに倒れた。 「同じ学校行こうって言った。大学生になったら一緒に住もうって——」 「うん」 揉み合い、彼はもうほとんどはだけていた。 あかりのない部屋で、彼の肌だけがくっきりと浮かび上がる。 なるべく焦点を合わせないよう俯いた。 「αだって言ったじゃん」 「うん」 「なんでマイは、αじゃないの……」 枚田の下で身動きの取れなくなった彼が、ついにか細い声を出したとき、ああだめだと思った。 かろうじて指先に引っ掛けていた風船を、ついに手放してしまったような——諦めと、解放を味わう。 途端、疎ましさや憎しみといった感情はどこかに吹き飛ばされ、ただただ、愛しさだけが舞う。 それはいつものことといえば、そうだった。 枚田は、美しい彼を目の当たりにすると、苦味などすぐに忘れてしまう。 ただ目の前の州という存在に没頭してしまうのだった。
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