αならよかった

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「州」 枚田は彼の後頭部を片手で支えると、そっと引き寄せた。 互いの鼻先がぶつかった瞬間だけは少し怖気付いたが、彼がその先を待っていることを感じ取ると、そっと唇を重ねた。 州から拒絶されることはなかった。 「もっと口開けて」 枚田は彼の手のひらをほぐして錠剤を取り出し、口に含んだ。 それから彼の背中に手を回し、体をぴったりとくっつけると、今度はより深く口づけて、それを受け渡す。 ずっと至近距離でただ見つめてきただけだった、赤く小さな唇を、自分が今、塞いでいる。 息を漏らしながら、応えようとしている姿に胸が熱くなった。 「……俺と体を取り替えたら、州はゴリラになるんだぞ」 州は瞼を開ききらないまま、軽く吹き出した。それから、まだ足りないとばかりに唇を追いかけてくる。 「ゴリラなんて思ったことない」 「え?」 「マイの顔好きだよ、俺」 不意打ちにもほどがあった。 今の州はどう見たって正気じゃない。 発情しているし、アルコールも入っているだろう。ましてや、あんなことがあった直後だ。 だが枚田は、単なるまぐれだとしても、彼とのあまい戯れをまだ引き延ばしたかった。 しかし、彼の弱みにつけ込み、傷つけるのは嫌だ。 だから、どうにか正当な理由をつけて、体に触れたいという、いちばん卑怯なことを考えていた。 「膝立てて。肩に手、回しな」 体を起こし、州の腰を掴むと、毛布を剥ぎ取った。 彼が大人しく従うのを待ってから、耳たぶを甘噛みする。 「中の出さないと……」 それからまた、深く口付けた。 彼の体から緊張がほぐれていくのを待って、枚田は彼の腿に指をそわせ、それからさらに奥へと忍ばせた。
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