αならよかった

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「マイはしたくないの?」 「そうじゃないけど、今はだめ」 このまま流されれば、ほかの人間と同じだ。 群衆のひとりとして溶けてしまうのは嫌だった。 「今じゃないならもうしない」 「州……」 彼も引き下がる気はないらしい。 入り口にあてがい、腰を沈めてくる。迫りくる熱に、じりじりと焦がされ、眩暈がした。 「だめ、ほんとに。入っちゃうから……っ」 胸を押すと、その白い眉間に皺が寄った。 肩で呼吸をしながらこちらに向けた眼差しは、怒っているようにも、懇願しているようにも見えた。 「ほかの奴らがやりまくった後だから、汚いって思ってんの?」 「違うよ、ばか!」 こちらが慌てると、微かに微笑む。 それから枚田の胸を撫で回してきた。 「マイので上書きしてほしいんだよ」 「州……」 「さっきのやつ、全部忘れたい」 あ、と声を上げたときにはもう遅かった。 熱くてあまい、州の奥へと、踏み込んでいた。 「ん……っ、はいった……」 完全に腰を沈めてしまうと、彼は待ち侘びていたような高い声を出した。 声を出しながら息を大きく吐き、繋がっているその根元を指先で確かめる。 「すごい、マイの——」 彼に導かれるまま、繋がった部分を見ると、たまらなくなり、彼の腰に手を添える。驚くくらいに薄かった。 「んっ、んっ……」 彼は嗚咽にも似た喉の震えを伴いながら声を発すると、微かに腰を揺らし始めた。 こちらから強い刺激を加えなくても、悦びを感じているのは、結合部から伝わってくる。 発情しているからなのか、自分の具合がいいのかは定かではないが———— 「あっ……」 耐えきれず、軽く突き上げると、州は体をのけ反らせながらひときわ高い声で鳴いた。 あらゆる感覚をもってしても、本当に彼と繋がっているのかが、まだにわかには信じがたい。 枚田は自身の下腹部に視線を落とし、ふたたびその真実を確かめた。 「あっ、あっ……」 浅く、そして深く——強弱をつけながら、ともにのぼりつめていく。 恍惚としながらこちらを見下ろす州。 そんな眼差しを向けられるのは初めてで、枚田はぼんやりと、欲望に埋没していった。
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