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州との出会いは、小学3年生に進級する前の春休みだった。
自宅の向かいにあった畑が不動産業者に買われて新興住宅地になり、彼ら一家がその一角に越してきたのだった。
初めて州と環を見た時は衝撃だった。
「よろしく」
軽やかに発する彼らを、まるで外国の子猫のようだと思ったことは記憶している。どこの品種のなんていう猫なのかまでは知識が及ばなかったが、とにかく漠然と、そんな印象を抱いたのである。
州とは同じ学年ということもあり、クラスも同じだっため、打ち解けるのに時間はかからなかった。
彼は口数は少なかったが、大人のいうことをよく理解し、求められていることを的確に判断できる聡明な子どもだった。
宿題を教えてあげるよ。
二重跳びのやり方を教えてあげる。
そんなことがきっかけで、彼にリードされる形で付き合いが始まった。
思い返すと、手綱は最初から、彼に渡っていたのだ。
和やかだったのは最初の数ヶ月だけで、州は徐々に本性を表してきた。頭が切れて口も達者、時に陰湿な部分も持ち合わせていたから、おっとりとしていた枚田は、ずいぶんと振り回されたものだ。
しかし、州がそんな風になるのも、あくまで2人きりのときだけだった。
人見知りが激しい性格に加え、抱えている習い事の数も多く、放課後に約束をすることもできなかった彼は、友達の数はそう多くなかった。
だから、近所に住んでいて自分の思うがままにできる枚田の存在は、都合がよかったのだろう。
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