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提案
唐突に訪れた、それも濃厚な初体験は、枚田にいくつかの後遺症を残した。
狂ったように欲に溺れ、離れてからも余韻でふわふわと宙を舞う。
地に足をつけぬまま、1週間は過ごしただろうか。
じっくりと時間をかけて、あの一夜のひとときが冷え固まると、余韻は形状を変えて、新たな感情に生まれ変わった。
体を重ねてみて初めて、彼の肌への執着の、その下にあるものに気づいたのだった。
枚田はその後、メッセージのやりとりや電話を通して州の様子を伺った。
発情期はその後も1週間以上ほど続き、先週の半ばからようやく復学できたらしい。
あんなことがあったばかりだ。友人関係がおかしくなってはいないだろうか——枚田はふとそんなことが心配になったが、彼はそのことについてはなにも触れなかった。
3週間後、枚田はふたたび州のマンションを訪れた。検査薬を試す際は必ず付き添うという約束を取り付けていて、今日がちょうどそのタイミングだった。
インターフォンを押すが、一向に反応がない。
もう一度押すと、ようやくスピーカーが通じたものの、聞こえるのは雑音ばかりで、応答はなかった。
「どうかした?」
ふと不安になり声をかけると、少し離れたところで会話のような音を拾う。一間おいて、ようやく州からの返事があった。
「ごめん。ちょっとそのままエントランスで待ってて」
「誰か来てるの? 大丈夫?」
思わず、その言葉をセットにしてしまう。
対して、彼は抑揚をつけずに淡々と、短く言い放った。
「平気。すぐ終わる」
それから音声が切れる。
——状況はわからないが、いつもの州だった。
枚田は彼の言うことを信じて、エントランスのソファに腰掛けた。
待たされたのはほんの10分ぐらいだっただろうか。
インターフォンを押そうとドア前まで近づいた時、ちょうど中から人が出てきた。
長身の大学生らしき男性で、彼はすれ違う際に視線を寄越してきた。
まるで、こちらが何者かわかっているようなその態度に——枚田は、彼が先客であることを察したのだった。
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