提案

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「待たせたな」 出迎えてくれた州は、いたっていつも通りだった。 その声色、表情に、ほんのりとしたなつかしさを覚える。 高校時代、通学を共にしたときのような——毎日繰り返されたそれだ。 今の彼を前にしていると、体を重ね、肌の隅々まで触れたことが信じられないぐらいだった。 「友達が来てたの?」 「ああ、大学の————」 やはり、先ほどすれ違った相手だ。 枚田は瞬時に悟ったが、黙っておいた。 大丈夫だったのかという質問を繰り返すのはさすがに野暮だろう。 ——改めて訪れた州の部屋は、余計なものがなく、整然としていた。 ベッドとカフェテーブルのほか、作業用のデスク。それ以外の家具はなかった。 この余白になんとなく落ち着くのは、彼の実家と、さほど印象が変わらないからだろうか。 「適当に座って」 彼はベッドを指し、枚田に腰掛けるよう促すと、自分はデスクのチェアに座った。 彼は引き出しから未開封の検査薬の箱を取り出すと、カフェテーブルに放る。 俯いたその顔に、ふと影がさした。 「緊張する?」 枚田が伺うと、州は笑みをつくり首を左右に振ってみせたが、不安にならないわけがなかった。 いくらアフターピルを服用したからといっても、αと交わった以上、一定の可能性はある。 中学の時、同じ不安を味わったのだ。 開封前の箱を前に、彼は深呼吸を繰り返していた。 「さっきの友達、何の用だったの?」 州の緊張を前にしたら、いてもたってもいられなくなり、質問した。 彼の気を紛らわすこともそうだし、こちらの気がかりも解消したかった。 「ああ。この前のこと、謝りたいっていうから……」 「え?」 つまり、州を犯したうちのひとりが来ていたということだ。 よほど怪訝な表情だったのか、州がこちらを見て笑う。 「お前、すごい顔だよ」 「本当にそれだけ?」 「なにもないよ。別に——……」 語尾の濁し方が気になってさらに問い返すと、州は椅子を回転させてこちらに背を向けた。 不安になり、思わず立ち上がる。 彼の背後に立って圧をかけると、ようやくぽつりと自白した。
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