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州は検査薬の箱を手に取ると、爪を立てて開封した。
それからパッケージの裏を見て、自虐混じりに笑う。
「妊娠してたらどうするかな……」
投げやりなひと言が、枚田はどうも引っかかった。
もしここではっきりとしたら——彼はどうなってしまうのだろう。
たとえ結果が白だとしても黒だとしても、行く先に違いはない気がして、それが怖いのだ。
そして、彼がもしそこに行くつもりならば、なんとしてでも阻まねばならないと思った。
「大丈夫。一緒に育てよう」
州がリアクションをするよりも先に、背後から抱きしめた。
表情を伺えずに、彼の肩に額をつける。
幸い、笑い飛ばされはしなかった。
「それ、産めってこと?」
「だって俺の子だから」
州が呆れたように笑ったが、それは想定内だった。
男性同士、女性同士の性交での妊娠は、αとΩのみで成立する——小学生でも知っている常識を枚田が知らないわけはなかった。
「俺が上書きしたんだから、俺の子だよ」
その時、州の胸が膨らみ、呼吸が乱れたのがわかった。
それが戸惑いであり、喜びであることを——枚田は願った。
「州、一緒に暮らそう」
州の吐息が揺れる。白いうなじや薄い肩、そのすべてが震えている。
たまらずに、よりきつく抱きしめた。
「州がしんどい時はそばにいたい。それに、他のやつに何かされるの——もう嫌だから」
州は黙ったまま、寄りかかってこちらに身を預けてきた。
拒絶されなかったことにひとまず安堵したが、甘い香りが鼻をついてきて、どうも落ち着かない。
「そばにいて何してくれんの、マイは」
すると、州がそんなことを言ってきた。
照れ隠しなのだろうが、あえて問われると言葉に詰まる。
「しりとりとか……」
「ふぅん?」
我ながら白々しいと思い、枚田は咳払いをして誤魔化した。
「州が望むことなら、なんだってするよ」
続けてそう言った時、州がひそかに笑ったのが、背を向けられたままでもなんとなくわかった。
——彼の陰性を確認し、しばらく経った頃、枚田は実家を出た。
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