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思えば、一緒に暮らそうと提案したあの時、もう少し言葉を選んでいたのなら、ふたりの関係性も違っていたように思う。
望むならなんだってする——こちらが与えた言葉は、州が欲しかったものとずれていたのかもしれない。
もちろん、枚田が本当に言いたかったことでもない。
結局は臆病な気持ちに勝てず、ずっと掛け違えていたボタンを正しく戻す機会を、また自ら逃してしまったのだ。
それでも、共に暮らした大学の3年間は、ふたりのなかで最も穏やかな時間だったといえる。
同じ家に帰宅し、共に寝起きする——その繰り返しにより、州の情緒は落ち着き、癇癪を起こすことはほぼなくなった。
また、一時の空白を経て再開してからも、ふたりの関係性は一部を除いて大きくは変わらなかった。
今までと決定的に違うのは、彼が発情期を迎えた時だ。
「州、もういいって……」
臍を撫でつけてくる彼の黒い前髪をすくい、撫でてやりながら、限界が近いことを知らせる。
彼はそれをわかっていながら、あえて舌先で煽り、楽しんだ。
「あ、だめだって……ほんとにっ」
両肩を掴んで引き剥がすと、彼は笑いながら唇の端を拭った。
少し前は想像もつかなかった。
彼に触りたくて、焦らされて——悶々としていた頃が嘘みたいだ。
州はもう、なんでもしてくれる。
枚田は彼の体を転がし、さまざまな角度から隅々まで見ることを許され、これまでの鬱憤をはらすかのように、彼の髪の毛一本一本にまで、執念深く触れた。
朝から晩まで、体力のもつかぎり、獣のような戯れに耽った。
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