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「州、こっち……」
州を引き寄せ、キスをする。
深く、それから啄むように——時間をかけてじっくりと味わい尽くす。
発情期の間、彼と体を重ねられることももちろんだが、キスができることのほうが嬉しかった。
だからなるべく、彼との戯れの中にその時間を多くとった。
「マイ……」
彼からこうして促されるまで、枚田から唇を離すことは滅多になかった。
枚田が体を離すと、彼は自らうつ伏せになった。
恥じらいもなく腰を上げて、ねだるような流し目を寄越す。
意地悪をしたらどうなるのだろう。このまま焦らし続けたら、州は求めるあまり泣くだろうか——そんな思いはよぎるだけで、実現しなかった。
結局は、彼の言いなりなのだ。
「あー……っ」
枚田が応じると、州は歓喜ともとれる叫びを上げた。
ぴたりと密着した途端、互いの体温がなじんで溶け合う。
彼の背骨に息をぶつけると、細い腰がうねった。
「あっ、あんっ」
軽く揺さぶり始めると、あとはもう、州のなかに、彼の思うまま、引き摺り込まれていってしまう。
枚田は律儀にも彼の体しか知らないが、そのたびにはっきりと感じた。
中毒性を孕んだ強烈な甘さを。
そして、これこそがΩの体なのだと—————
「あぁ、あ————」
βですらこうなのだから、αはどうなってしまうのだろう。
うっすらとよぎりながらも、かつてのように自分がαだったらと思うことは、彼と共に過ごすようになってから少なくなった。
本能のまま動物的に交わるよりも、ある程度の理性を保ったまま、花開く瞬間を見届け、蜜を吸い、じっくりと味わうほうがずっといい。
それが人間的であり、また高尚なものだとも思えるのだった。
「あ————」
彼が体を震わせ、シーツをかき寄せる。
その中心に集まる皺が、徐々にふたたび伸びて、やがて消えて無くなるのを、白く霞む意識のなかで見つめていた。
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