第五章

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「州、こっち……」 州を引き寄せ、キスをする。 深く、それから啄むように——時間をかけてじっくりと味わい尽くす。 発情期の間、彼と体を重ねられることももちろんだが、キスができることのほうが嬉しかった。 だからなるべく、彼との戯れの中にその時間を多くとった。 「マイ……」 彼からこうして促されるまで、枚田から唇を離すことは滅多になかった。 枚田が体を離すと、彼は自らうつ伏せになった。 恥じらいもなく腰を上げて、ねだるような流し目を寄越す。 意地悪をしたらどうなるのだろう。このまま焦らし続けたら、州は求めるあまり泣くだろうか——そんな思いはよぎるだけで、実現しなかった。 結局は、彼の言いなりなのだ。 「あー……っ」 枚田が応じると、州は歓喜ともとれる叫びを上げた。 ぴたりと密着した途端、互いの体温がなじんで溶け合う。 彼の背骨に息をぶつけると、細い腰がうねった。 「あっ、あんっ」 軽く揺さぶり始めると、あとはもう、州のなかに、彼の思うまま、引き摺り込まれていってしまう。 枚田は律儀にも彼の体しか知らないが、そのたびにはっきりと感じた。 中毒性を孕んだ強烈な甘さを。 そして、これこそがΩの体なのだと————— 「あぁ、あ————」 βですらこうなのだから、αはどうなってしまうのだろう。 うっすらとよぎりながらも、かつてのように自分がαだったらと思うことは、彼と共に過ごすようになってから少なくなった。 本能のまま動物的に交わるよりも、ある程度の理性を保ったまま、花開く瞬間を見届け、蜜を吸い、じっくりと味わうほうがずっといい。 それが人間的であり、また高尚なものだとも思えるのだった。 「あ————」 彼が体を震わせ、シーツをかき寄せる。 その中心に集まる皺が、徐々にふたたび伸びて、やがて消えて無くなるのを、白く霞む意識のなかで見つめていた。
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