427人が本棚に入れています
本棚に追加
「リモートミーティングってなにかと不便じゃないの?」
「直接話したほうが早いときもあるけど、そこまで不便ではないよ。想定してたよりも色々とスムーズにいってる」
「想定って?」
「勉強。今までは発情期だとなにもできなかったから。でもマイと住むようになってからは、うまく分散できてるし」
すると、州のスマートフォンがテーブルの上で振動した。
彼は画面を見ると、枚田の肩を支えにして立ち上がった。外に出るつもりなのだろう。
すれ違いざま、スピーカーから漏れてきた「もしもし」という声だけで、もう相手が誰なのかがわかった。州に告白をしたという、あの男だ。
名を外園というらしい。
なにかと連絡を寄越してくるのは、州にまだ気があるからだろう。
枚田は、そのまま玄関のドアを見つめていたが、やがて冷蔵庫に水をとりに行くという名目で立ち上がり、外の様子を伺った。
彼の会話は聞こえない。ただ、小窓のすりガラス越しに、その姿が揺らめくのが見えただけだった。
やがて、州が戻ってきた。
ドアを開けて驚いたような顔をしたのは、枚田がキッチン——つまり玄関近くに立っていたからだろう。
「大事な電話だったの?」
彼はスマートフォンをベッドに放ると、鋭い視線を寄越してきた。
「なにが?」
「や、わざわざ外出たから……」
「別に。課題に使う資料について話してただけだけど」
ならわざわざ席を外さなくてもいいんじゃないか。
小さな不安が溢れそうになるのをなんとか口端に留める。
しかし、話をすんなり終わらせられるほど、余裕があるわけでもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!