第五章

5/6
前へ
/193ページ
次へ
「リモートミーティングってなにかと不便じゃないの?」 「直接話したほうが早いときもあるけど、そこまで不便ではないよ。想定してたよりも色々とスムーズにいってる」 「想定って?」 「勉強。今までは発情期だとなにもできなかったから。でもマイと住むようになってからは、うまく分散できてるし」 すると、州のスマートフォンがテーブルの上で振動した。 彼は画面を見ると、枚田の肩を支えにして立ち上がった。外に出るつもりなのだろう。 すれ違いざま、スピーカーから漏れてきた「もしもし」という声だけで、もう相手が誰なのかがわかった。州に告白をしたという、あの男だ。 名を外園(ほかぞの)というらしい。 なにかと連絡を寄越してくるのは、州にまだ気があるからだろう。 枚田は、そのまま玄関のドアを見つめていたが、やがて冷蔵庫に水をとりに行くという名目で立ち上がり、外の様子を伺った。 彼の会話は聞こえない。ただ、小窓のすりガラス越しに、その姿が揺らめくのが見えただけだった。 やがて、州が戻ってきた。 ドアを開けて驚いたような顔をしたのは、枚田がキッチン——つまり玄関近くに立っていたからだろう。 「大事な電話だったの?」 彼はスマートフォンをベッドに放ると、鋭い視線を寄越してきた。 「なにが?」 「や、わざわざ外出たから……」 「別に。課題に使う資料について話してただけだけど」 ならわざわざ席を外さなくてもいいんじゃないか。 小さな不安が溢れそうになるのをなんとか口端に留める。 しかし、話をすんなり終わらせられるほど、余裕があるわけでもなかった。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

427人が本棚に入れています
本棚に追加