アンフェア

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「マイ、スマシスやろうよ」 主に土曜日の午前中、彼はひょっこり現れた。 約束はしていない。気まぐれで遊びに来るのだった。 「今ギャラクエやってるから、少し待っててよ」 枚田は新しいロールプレイングゲームを手に入れたばかりで、土日はその攻略に精を出すつもりでいた。 さっそくやり始めた矢先に、彼がやってきたのだった。 「もうすぐピアノだから、あと1時間しかないんだよ」 「でも、今は俺が……」 「リコーダーのテスト練習付き合ってやったじゃん。あの時、吹けるようになるまでどのくらいかかったっけ?」 枚田は考えるふりをしながら、唇を噛み締めた。 なかなか音が出ずに、2時間以上彼を付き合わせたのが、まだ記憶に新しかったためだ。 「1時間ぐらい俺に譲れよ」 反論の余地なく、枚田はゲーム機を差し出した。 ——州の両親、とりわけ母親は教育熱心だった。 彼の家に行くと、天体望遠鏡や図鑑など、高価な知育玩具は豊富にあったが、ゲーム機の類はなかった。聞けば、タブレットでの動画の視聴も、一日30分に制限されているという。 だから、州は息抜きと称して、たびたび枚田の家にやってきた。 勉強をするという名目でゲームに興じ、クラスで流行っている動画を視聴した。 「クリスマスプレゼント、何にするか決めた?」 ディスプレイを固定し、コントローラーの片方を差し出してくると、州が言った。 嫌な予感がして言葉を濁すが、どうなんだと詰められて、逃れることができない。 「キックスケーターにしようかなって……」 州の落胆した気配が、画面を見たままでも伝わってくる。 「アイクラ貰うって言ってなかったっけ?」 「うん。アイクラと迷ったんだけど……」 アイクラとは、先週発売したばかりのゲームソフトのことだ。クラスではすでに持っている者もいて、話題になっている。 枚田も興味がないわけではなかったが、内容が少し難しそうで、今ひとつ積極的になれなかったのだ。 「絶対、アイクラの方がいいって」 「でもあれ難しそうだし」 「そんなん、動画でチュートリアル見ればいいじゃん。俺が教えてあげるし」 彼がそのゲームをやりたがっているのは知っていた。しかし、誕生日とクリスマスの年に2回しかないチャンスだ。半年前から検討に検討を重ねて出した結論を、そう簡単に覆せない。 渋っていると、彼が肩に手を回してきた。引き寄せられてよろめき、首筋に鼻先がぶつかる。 瞬間、ほのかにいい香りがした。 酸味のない、主張の強い甘さのあるそれは、どこかで嗅いだことがある気がした。
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