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「電話の人とさ、本当になにもないの?」
「なにもって?」
相槌を打ちながらも、すでに眉間に皺を寄せて、不快を露わにしている。
「前、告白されたって言ってたじゃん。その後、どうなのかなって」
「断ったって言っただろ」
要するに、うざったいのだ。
以前も同様の質問を投げかけたせいだろう。
「まだ相手は州のこと好きかもしれないよ」
「だからなに。俺は断ったんだから、相手がどう思っていようとそれまでだよ」
別にやましいことがないのはわかる。
無駄な詮索をされて面倒くさがっているのは、その表情から見てとれた。
「でも、やっぱ危ないよ……」
うっかり口にすると、盛大な舌打ちが聞こえた。
しまったと思ったが、もう後の祭りだった。
「なにが? Ωの俺が、αとばっかつるむのが?」
「ごめん、言い方が悪かった」
州の今までの選択や努力を否定するつもりはない。彼が抑制剤を打てたならば、ここまで干渉しなかっただろう。
過度な心配は彼を追い詰め、未来を潰すことも、十分に理解はしているつもりだった。
「ただ、あんなことがあったから心配で……」
言いながら項垂れる。
州は頭をかきながらそっぽを向いたが、数秒後にはまた枚田の膝に跨ってきた。
どうやら枚田が思っているほど怒ってはいないらしい。
「今はちゃんとこうやってコントロールしてるから大丈夫だろ」
「でも……」
それに、と繋げながら、州が裾に手を入れてくる。
胸元を撫でられて、反論を飲み込んだ。
「発散する相手なんて、ひとりいれば充分だし」
その言葉をあまり悲観的に捉えなかったのは、彼の声がひときわ甘かったからかもしれない。
それから、指で、舌で、翻弄されて、雑念はさらさらと押し流されていった。
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