第五章

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「電話の人とさ、本当になにもないの?」 「なにもって?」 相槌を打ちながらも、すでに眉間に皺を寄せて、不快を露わにしている。 「前、告白されたって言ってたじゃん。その後、どうなのかなって」 「断ったって言っただろ」 要するに、うざったいのだ。 以前も同様の質問を投げかけたせいだろう。 「まだ相手は州のこと好きかもしれないよ」 「だからなに。俺は断ったんだから、相手がどう思っていようとそれまでだよ」 別にやましいことがないのはわかる。 無駄な詮索をされて面倒くさがっているのは、その表情から見てとれた。 「でも、やっぱ危ないよ……」 うっかり口にすると、盛大な舌打ちが聞こえた。 しまったと思ったが、もう後の祭りだった。 「なにが? Ωの俺が、αとばっかつるむのが?」 「ごめん、言い方が悪かった」 州の今までの選択や努力を否定するつもりはない。彼が抑制剤を打てたならば、ここまで干渉しなかっただろう。 過度な心配は彼を追い詰め、未来を潰すことも、十分に理解はしているつもりだった。 「ただ、あんなことがあったから心配で……」 言いながら項垂れる。 州は頭をかきながらそっぽを向いたが、数秒後にはまた枚田の膝に跨ってきた。 どうやら枚田が思っているほど怒ってはいないらしい。 「今はちゃんとこうやってコントロールしてるから大丈夫だろ」 「でも……」 それに、と繋げながら、州が裾に手を入れてくる。 胸元を撫でられて、反論を飲み込んだ。 「発散する相手なんて、ひとりいれば充分だし」 その言葉をあまり悲観的に捉えなかったのは、彼の声がひときわ甘かったからかもしれない。 それから、指で、舌で、翻弄されて、雑念はさらさらと押し流されていった。
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