独占欲

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独占欲

発情期という蜜月が過ぎると、彼に吐かれた言葉の輪郭が一人歩きし、枚田を戸惑わせた。 発散する相手は、ひとりで充分。 もしかしたら、彼なりの愛情表現なのかもしれない。 しかし———— 「それはあれですね。都合のいいセックスマシーン」 佐竹(さたけ)竜二(りゅうじ)の言葉は、ぐずぐずに湿っていた枚田の心を、躊躇いもなく殴打した。 彼は口数は少ないものの毒舌家で、発言する際は躊躇しない。しかし、今はなんとなく、この配慮のなさを欲していたのかもしれない。 「マシーンって……」 「だって、“シュウ”の発情期には、枚田氏が学校もバイトも休んで付き合ってるんですよね。それでひたすら搾取されるという……」 「されてないよ。なにを搾取されるっていうの」 「精子」 佐竹は、角に沿ってきっちりと作業用テーブルを拭いていく。体重をかけるたび、脚がみしみしと音を立てた。 彼の声は決して大きくないもののよく通るから、雑音が混ざっているほうが都合がよかった。 「しかも、発情期が終わるといつも通り素っ気なくなると。それ、いいように使われてるだけのような気がしますね」 「普段でも、キスぐらいはするよ……」 「聞いてると、枚田氏から求めて仕方なく応じてくれてるって感じじゃないですか」 完全に見透かされている。 ダスターを四角く折りたたみながら淡々と言い放つ佐竹を、枚田はうらめしく思った。 ——発情期が終わると、州からふれてくることは滅多にない。 体が自由になると、停滞していた分を取り戻すかのように勉学に勤しみ、枚田にかまう暇などないといった風だった。 「恋人じゃないなら、セックスマシーンですよ」 「違う。俺は州の幼なじみで——」 「ある意味、専属のパーソナルトレーナーという見方もありますね。体調管理係という」 彼が手のひらを叩くのを、ぼんやりと眺めた。 パーソナルトレーナーも嬉しくはないが、機械よりかはだいぶましだ。 それに、佐竹のいうこともわからなくはないのだ。 州とは決定的な言葉を交わしたわけではない。今までの幼なじみという肩書きも、そこにセックスが加わると、途端に不安定になってしまった。 やはりあの時、州にはっきりと言うべきだったのだ。 あのひよってつい口走った、下僕めいた言葉なんかではなく————
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