独占欲

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「いつまでもキッチンに引きこもってないで、いい加減、挨拶してきたらどうです?」 佐竹に促されるまま、暖簾をめぐって客席を見ると、スペースの一角を占拠するグループの華々しさに目を奪われた。 うち男性3人は体格がよく、どこか威圧感のある雰囲気で、皆似たような印象だった。 そのなかで州だけが、種の違う花を背負っている。彼らに埋没しない、別の光線を発していた。 そんな彼らがひとかたまりになると、店員の立場ですら近寄りがたいような、目のくらむような心地がするのだった。 「まあ、あの人達を前にしたら気が引けるのもわかりますけどね」 佐竹も頭をかきながら、枚田と同方向に視線を投げた。 「ドリンク提供した時、なにか話してたんですけど、彼らの会話の内容が専門用語だらけでさっぱりわからなかったです」 「ああ、たぶん大学の課題かなんかの話してんじゃない。知らんけど」 枚田もたまに聞くことがあるが、カタカナの用語が飛び交っていて、理解できなかった。 「会話中、意味がわかったのはサンフランシスコっていう単語のみでした」 「意味も何も、地名じゃん」 笑いながら、枚田はある人物に焦点を絞った。 最大の関心は、州の隣に座る外園の存在にあった。 今朝、州から「大学の奴らとマイのバイト先に飲みに行く」と言われたときから、彼が同席することはうっすらと予感していたが—— 「隣の人が、例のセックスマシーン2号ですか?」 「いや、2号じゃないし。セックスマシーンでもないから」 佐竹は薄い唇をめいっぱい広げて笑う。笑うとやたらと犬歯が目立つ男だ。 「まあ、たしかに。マシーンという呼び方も、2号もいう呼び方もふさわしくない感じですね」 そして、外園を改めてまじまじと見つめてから、追い討ちをかける。 もちろん異論などあるはずもなく、枚田は静かに唇を噛むしかなかった。 外園は、州の隣に並ぶのにふさわしい輝きと色彩をもっていた。
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