独占欲

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「今って表立った性差別みたいのもないし、αだとかΩだとか、あんま意識することもなかったんですけど——いざあれがそうですって言われると、やっぱ違うものですね。俺らβとは」 「違うってなにが?」 「オーラっていえばいいんですかねぇ」 佐竹に相談するうち、自然な流れで彼が自分と同じβということを知った。また彼も、枚田と話すことで第二の性というものを人生で初めて意識したらしい。 特性を持たないβにとって、その問題はどこか他人事であり、関心の薄い事柄なのだろう。 だから、人生で初めて目にした「抑制剤の効かないΩ」という特異な存在は、彼にとって実に興味深いらしい。 「Ωとαって、やっぱ絵になるんですね。さすが番になる性別なだけある」 「隣にいるのが俺じゃ釣り合わないってこと?」 「そうは言いませんけど。ただ枚田氏と“シュウ”の場合、我儘なお坊ちゃんと、それに振り回される執事感が強いというか……」 彼のストレートさ、悪気のなさが皮膚を抉る。 しかし、彼の例えは秀逸だとも思った。 州と外園、同じ色調のふたりを目にした途端——αなんかじゃなくてよかったという、一過性の感情はどこかに吹き飛んでしまう。 やはりβは場外だ。 それを改めて実感させられた。 「挨拶してきたほうがよいかと」 「だって俺、キッチンだし」 「理由になりませんよ。暇じゃないですか」 「いや、いいよ。どうせ後でまた会えるし————」 枚田はそれだけ言うと、暖簾にかけた手を下ろして、持ち場へと戻った。 枚田の尻込みを察してか、佐竹はそれ以上追及しなかった。 州もまた、枚田を呼びつけてくることはなかった。 しかし、2時間ほど経ったころ、佐竹がふたたびキッチンに入ってきた。 州達が帰るらしい。せめてレジ対応ぐらいしたらどうだということだった。 散々渋った後、ようやく出ていくと——レジの前で州が腕組みをしながら立っていた。 ほかの友人達は、すでに店の外に出てしまったらしい。 彼は枚田の姿を捉えると、唇を尖らせた。
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