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ひんやりとした風が、作務衣の胸元に差し込んでくる。
外気に晒された途端、全身に染み込んだ揚げ油やだしの匂いが気になり、枚田はジャケットの第一ボタンを慌ただしく留めながら大股で歩いた。
彼らが店を出てからさほど時間が経っていないので駅方面に行けばまず間違いないと思った。
雑居ビルが立ち並ぶ路地を抜けてロータリーまで来ると、予想通り、彼らの姿を捉える。
背格好で、遠目からでもすぐに気づくことができた。
足音に気づいたのか、まず仲間内の一人が振り向いた。彼は近づいてくる枚田を不思議そうに見ている。
どうやら店員が忘れ物を届けに来てくれたとでも思ったらしい。
彼につられて、全員が一斉にこちらを振り向いた。
外園の視線を、ひときわ強く感じた。
「どうしたの」
州の唇が、微かに開く。
一斉に視線が集中するとたちまち萎縮してしまい、咄嗟に言葉が出てこなかった。
「なに、州の友達?」
仲間のひとりが言う。
「うん。同居人」
外園の視線に圧されて俯く。
州が彼らに、自分達の関係性をあけすけに話してるとは思えないが、彼に好意を寄せる外園なら、すでに勘づいているのかもしれない。
ふうんと相槌を打つほかの連中とは、視線の種が異なっていた。
怯んでいる場合じゃない。止めなければ、何のために追いかけてきたのかわからない————
「州、俺と帰ろう」
やっと呟くと、州は言葉よりもまず先に眉間の皺で反論してきた。
さっき帰れないって言っただろ?
目がそう語っているが、適当な理由をつけてごまかす余裕すらなかった。
「行かないでほしい」
ただ素直にそう言うと、州は枚田の腕を掴んで、仲間から距離を取った。
そのまま枚田を自販機の側面に押し付けて、不機嫌な表情で威圧してくる。
「どういうつもりだよ」
声のボリュームは絞っていたが、怒っているようだった。
「αばっかのとこに行かせたくないんだよ」
「だから大丈夫だって。ただの友達だし、今は発情期じゃない」
「絶対発情しないとは限らない。前の時だってそうでしょ?」
州は唇を噛み締めた。前例があるだけに、反論できないらしい。
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