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「……俺の交友関係にまで、お前に口出しされる筋合いない」
渇いた笑いが溢れる枚田に、州は眉を顰めて不快感を露わにした。
「友達じゃないじゃん」
「は?」
「あいつら州のことそういう目で見てるよ。気づかないの?」
さすがにかっとなったらしい。言いすぎたと思った時には、肩を押されて、自販機に叩きつけられていた。
「お前に俺の気持ちはわからないよ」
遠くで見守っている友人達が、驚いたように顔を見合わせているのが視界に入った。
揉めているのはすでに伝わってしまっているようだ。
ならばもう、開き直ってしまえばいい。
枚田は改めて州と向き合った。
「じゃあ州は、またあんな風にされてもいいの?」
「いいよ別に。減るもんじゃないし」
抑揚はなかったが、それでも彼にしては感情的だった。
投げつけられたひと言に釣られまいと、どうにか一旦受け止めると、枚田はひと呼吸置いた。
「そんなの、俺が嫌だよ」
州からの反応はなかったが、そのまま独り言のように続けた。
「そんな簡単に……誰にでも触らせないでほしい」
彼が、仲間からも、また枚田からも——そういう扱いを受けたくないのはわかっている。
すでに特別扱いを受けていながら、それに気づかないふりをしたいことも。
αばかりのエリートが集う大学に進学して初めて経験したアイデンティティの揺らぎ、それから未来への不安は、そばで見ているから、痛いほどにわかっている。
「たまには俺のわがまま聞いて」
うつむくと、念じるように下を向いた。
そのままアスファルトを睨んでいると、やがて州のつま先が視界から消えた。
彼は仲間の元に戻り、なにかを話している。
やがて、州が片手を上げ、詫びをするようなポーズを取ったのを見て、緊張の糸がほろりと解けた。
彼らが州を残して駅方面へと歩き始める。
外園だけは何度かこちらを振り返り、州に手を振った。
「……ありがとう」
枚田は隣に並ぶと、まず言った。
州からの返事はなかった。枚田は彼の歩幅に合わせてゆっくりと歩きだした。
どこかずっと遠くから、風のうなる音が響いてくる。
「でも、止めたこと自体は悪いと思ってないから」
州がこちらを見たのが視界に入ったが、枚田は前を向いたまま、腕を密着させた。
州は呆れても、怒ってもいない。
「ばか」
「うん。ごめん……」
ただ、幼なじみの独占欲に戸惑い、目を潤ませている。
厚手のカットソーのせいで体温は感じられなかったが、それでも互いにこもる熱の湯気が、夜の風にからまるようにしてのぼっていく。
彼からわき立つ金木犀の甘い香りは、いつまでも鼻の奥に残っていた。
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