独占欲

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* 駅を出てアパートまで向かうなか、枚田はあることをずっと願っていた。 だから、部屋に入り込んで、電気をつけるよりも先に、しかも州からそれを貰えた時は喜びで震えた。 州からのキス。 「発情した」 唇を離した後、まるで言い訳のように口にする。 本来ならばその期間からは脱したばかりのはずだ。不順とはいえ、欲する際にきちんと満たされてさえいれば、しばらくは安定する傾向にあるのだ。 しかし、彼の主張がまったくのホラだとも思えない。 枚田だって同じだ。 間違いなく発情している。 互いに、互いで————— 「州、こっち来な」 体を寄せていざ触れると、州がかすかに震えたのがわかった。 彼の神経や意志ははっきりと生きていて、枚田の指や声、受け取るひとつひとつの仕草に応え、戸惑っている。 「州……」 服を剥ぎ取り、ベッドに押し倒すと、彼の白い肌と、シーツの境界とが、闇に溶けて曖昧になる。 微かな緊張が肌をざわつかせ、枚田を追い立てた。 初めての呼応。ようやく繋がった——なぜだか、そんな感動に包まれたのだった。 「あっ……」 声はいつもよりもずっと小さかった。 体内を指で探っていっても、いわゆる、誂えられたようないつもの状態とはまるで違っている。 彼の眉間に唇を落とし、強張りをほぐしていった。 「大丈夫?」 震える吐息を見つめながら耳元で声をかけ、それに州が何度か頷く。 近距離でぼやける彼のシルエットが、やがて定まった時——枚田は気づいた。 ようやく目にすることができた。 自分はずっと、こんな州に会いたかったのだと。 「見るなよ」 体を探られ、さらに間近でその表情の歪みを凝視されているものだから、州はばつが悪そうだった。 視線から逃れたい彼は、枚田の後頭部を引き寄せ、キスで封じてくる。 「んっ」 枚田は、食いつくようなキスを返しながら、視線も指先も遠慮はしなかった。 至近距離で見る彼の表情は時折ピンぼけしたり、焦点が合ったりを繰り返した。 そのうちに彼の肌のあらゆるところが湿り、目尻までが潤んだ。 「州、いれるよ」 彼はなにも言わない。 目の奥には理性の光がともり、微かな恥じらいが浮かんでいた。 「あっ……」 いつのまにか雨が窓を打つ音に取り囲まれていた。 藍色の部屋で、互いの呼吸が重なり合う。 静かで、騒々しい夜だった。
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