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駅を出てアパートまで向かうなか、枚田はあることをずっと願っていた。
だから、部屋に入り込んで、電気をつけるよりも先に、しかも州からそれを貰えた時は喜びで震えた。
州からのキス。
「発情した」
唇を離した後、まるで言い訳のように口にする。
本来ならばその期間からは脱したばかりのはずだ。不順とはいえ、欲する際にきちんと満たされてさえいれば、しばらくは安定する傾向にあるのだ。
しかし、彼の主張がまったくのホラだとも思えない。
枚田だって同じだ。
間違いなく発情している。
互いに、互いで—————
「州、こっち来な」
体を寄せていざ触れると、州がかすかに震えたのがわかった。
彼の神経や意志ははっきりと生きていて、枚田の指や声、受け取るひとつひとつの仕草に応え、戸惑っている。
「州……」
服を剥ぎ取り、ベッドに押し倒すと、彼の白い肌と、シーツの境界とが、闇に溶けて曖昧になる。
微かな緊張が肌をざわつかせ、枚田を追い立てた。
初めての呼応。ようやく繋がった——なぜだか、そんな感動に包まれたのだった。
「あっ……」
声はいつもよりもずっと小さかった。
体内を指で探っていっても、いわゆる、誂えられたようないつもの状態とはまるで違っている。
彼の眉間に唇を落とし、強張りをほぐしていった。
「大丈夫?」
震える吐息を見つめながら耳元で声をかけ、それに州が何度か頷く。
近距離でぼやける彼のシルエットが、やがて定まった時——枚田は気づいた。
ようやく目にすることができた。
自分はずっと、こんな州に会いたかったのだと。
「見るなよ」
体を探られ、さらに間近でその表情の歪みを凝視されているものだから、州はばつが悪そうだった。
視線から逃れたい彼は、枚田の後頭部を引き寄せ、キスで封じてくる。
「んっ」
枚田は、食いつくようなキスを返しながら、視線も指先も遠慮はしなかった。
至近距離で見る彼の表情は時折ピンぼけしたり、焦点が合ったりを繰り返した。
そのうちに彼の肌のあらゆるところが湿り、目尻までが潤んだ。
「州、いれるよ」
彼はなにも言わない。
目の奥には理性の光がともり、微かな恥じらいが浮かんでいた。
「あっ……」
いつのまにか雨が窓を打つ音に取り囲まれていた。
藍色の部屋で、互いの呼吸が重なり合う。
静かで、騒々しい夜だった。
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