周期

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そんな州と比べると、大したことはしていないのだ。 やりたいこともできることも思い浮かばないから、適当に会社を探してとりあえずエントリーする。 準備だって企業についてざっと調べる程度だし、筆記対策はテキストを開くといつのまにか眠っている。 それでも、片っ端から受けていくうちに何社か選考が進んでいる企業があった。 「一社、二次面接通った。次が一応最終みたい」 「へぇ、やるじゃん。どこなの」 枚田は彼に背中を向けて、壁紙に入った亀裂を眺めた。 こうして目先の未来を話すときは、どうも気持ちが晴れない。 「M社」 「大手じゃん」 「……の、子会社」 州は笑ったが、バカにしたわけではなさそうだった。 枚田は寝返りを打ち、仰向けになった。 「でも、たぶん行かないと思う」 「なんで?」 「本社が名古屋だから、そっちに行かされる可能性高いし……」 「そんなのまだわからないだろ。東京支社に配属されるかもしれないじゃん」 枚田はぎこちなく相槌を打った。 M社は、プリンタをはじめとした電子機器を扱う国内メーカーで、愛知県名古屋市に本社をかまえる。 その子会社であるM販売は、その名の通り販売をメインに担う会社で、やはり本社は名古屋にあった。 配属はまだ未定だが、面接では転勤の可能性があることは伝えられていたし、たとえ入社時に間逃れたとしても、どこかのタイミングでありえるだろう。 「でも、転勤がないところも色々見てるから」 「どこでもいいけどさ。ちゃんとマイが納得できて、行きたいところなら」 枚田は、寝返りを打ち、壁の歪みをじっと見つめた。 「じゃあ、俺が海外に就職してもいいんだ」 「たとえば?」 「インドのカレー屋とか」 「インドカレー屋なら駅前にあるだろ」 枚田はありあまる不満をとりあえず頬袋に収めて、まくらに顔を押し付けた。 マイが行きたいところならどこでもいい? いつから州は、こんな綺麗事を言えるようになったのだろう。 理不尽で我が儘な彼が不在なことに、腹が立ってくる。 それ以上の言葉が浮かんで来ずに、顔をシーツに押し付けた。
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