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答え合わせ
州が部屋を出て行ってから4日が経っていたが、その間どうにか正気を保っていられたのは、彼の居場所がわかっていたからだ。
州は出て行った日の夜、滞在するビジネスホテルの情報をメッセージに貼り付けて寄越してきた。
本文はなかったものの、それが彼なりの誠意だということは伝わってきた。
枚田は、その気遣いに胸を打たれると同時に、自らの行動を改めて深く反省したのだった。
——州には毎日、謝罪のメッセージを送った。
内容は、ごめんとか、早く帰ってきてほしいとか、すでに何度も伝えているようなことだ。
州はそんなことを望んではいないだろうと思いつつも、送らずにはいられなかった。
それにも返信のないまま4日目の朝を迎え、さすがにそろそろ迎えに行こうかと思い始めたその日の夜——彼は前触れもなく帰宅したのだった。
「うちのにおいがする」
州は帰るなり、まずはじめにそう言った。
謝ろうとしてさっそく出鼻を挫かれたが、枚田はとりあえず応答した。
「においなんてする?」
「普段はしないけど、長く家空けて帰ってくるとわかる」
「どんなにおい?」
「ゴリラの檻のにおいだな」
「まだそのネタ言うの」
州は微かに口角を上げた。彼から怒りは感じない。そもそも最初から怒っていたのかすら怪しい。
なんにせよ、謝罪するタイミングは完全に失われてしまった。しかし、彼がそれを求めているとも思えないから、枚田ももう言うのをやめた。
州はバックパックを抱えたまま洗濯機の前に立つと、逆さに振って衣類を投げ込んだ。
スイッチを入れてすぐ、洗濯槽が回り始める。
彼はそのまま、なかなか振り返らなかった。
「州」
「ん?」
「俺、名古屋行くよ」
背後から枚田が言うと、そのまま「そう」とだけ返してきた。
彼の背筋はまっすぐに伸びたままで、感情の振動が伝わってくることはない。
枚田は肩をすくめ、短く息を吐いた。
「やばいなー。これから、朝ひとりで起きられるかな……」
沈黙を割いておどけて見せたが、州から返事が続くことはなかった。
間をつなぐために、さらになにか言おうとしたが、そう都合よく思い浮かばない。
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