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——州と離れる決意は、環と会ったあの日からずっと固めていた。
しかし、いざ口にしてしまったら、とてつもない不安が込み上げてきて、彼から与えられる静けさの意味を伺うほどの余裕は無くなってしまった。
「あ、ごめん。シャワー浴びたいんだよね」
枚田は後退りして脱衣所から出ると、引き戸に手をかけた。
しかし、閉める前に体を押され、倒れてしまう。
あ、と声を上げる暇もなく、覚えのある生温かさに包まれた。
「州……」
枚田は微かに首を持ち上げて、胸の下で揺れる、州の頭を撫でた。
黒くて、癖のないやわらかい髪の毛。彼が風を起こすたび、例のあまい体臭と、共同でつかっている洗剤のにおいが立つ。
久々に触れられたことへの安らぎにじわじわと温められ、枚田は喉を鳴らした。
「やばい、出るから……」
体の中心まですっかり温められると、枚田はついに声を上げた。
州は唇についた唾液を拭うと、合図とばかりにTシャツを脱ぎ捨てた。
「発情しちゃったの?」
こちらからの声かけに、軽く頷く。
枚田は体を起こして彼と向き合うと、唇を合わせた。
何度かキスを繰り返したのち、まぶたを開いて、彼の目を見つめてみる。
熱にいくらかとろかされてはいるが、焦点は定まっている。こちらが体のあちこちに触れるたび、微かな緊張が漏れてきた。
答え合わせが全て終わると、枚田は改めて州を引き寄せた。
「ベッド行こ?」
そのまま、州を抱えて立ち上がる。運搬されている間、彼は枚田の胸に顔をつけて表情を隠していた。
いつぞやの環の言葉と、州のささやかな嘘が、重なり合い、愛しさがふくらんでいく。
それが欲望に押しつぶされないうちに、枚田は彼の頬を撫でた。
「州は、俺と離れるの寂しい……?」
彼は一瞬、息を止めてこちらを伺ったが、本音を言うつもりはないらしい。ただ短い息を漏らすばかりだ。
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