答え合わせ

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「ねぇ、州」 肌に手を這わせながらも繰り返すと、彼はやっとこちらを見て、枚田の額に張り付いた前髪を撫でた。 「せいせいするよ」 動作に伴わないぶっきらぼうな言葉が、彼らしい。 「俺は寂しいよ」 改めて口にすると、舌の付け根が震えて、涙を呼び寄せてしまいそうになる。 枚田は顔を隠すように、州に重なった。 「寂しくてほんとに……。どうにかなりそう」 州からの返事はなかったが、その代わりに両腕を背中に回してくれた。 慰めにしては力強く、なにかを堪えているような抱擁だった。 「毎週会いに来るから。連絡もする」 言うと、耳元で彼が笑った。 枚田の言葉をまるで信じていないようだった。 「お互いに数年離れて頑張って、それで、俺が帰ってきたら……」 「きたら?」 「また一緒に住もう」 妙な間を挟んだものだから、州が拍子抜けしたように笑った。 「どうかな」 「え、だめなの?」 「マイは嘘つきだから」 本当に言いたいことは、臆病な感情が勝って口にできなかったのだ。 結婚しよう——素直にそう言えていたら、彼はどういう反応をしただろう。 今のように半信半疑で、それでも嬉しそうに笑ってくれただろうか。 肝心なときに、心のどこかでブレーキがかかるのは、やはり自分がβであるという負い目なのかもしれない。 「ごめん。動くね……」 枚田は思いながら、彼にぴたりと体を寄せた。 「あっ、あ——」 州の表情がみるみる歪んでいく。 彼の髪が揺れ、視界がぶれて回る。 彼の声が、香りが弾け飛んで、枚田も追い立てられるように果てた。
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