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「それからしばらくそんな感じが続いて。1ヶ月ぐらいしてからかな? バイトから上がると、たまちゃんが店の前で俺を待ってたんです。それで、今度デートしてくれませんかって……」
「一沙、ずっと大判焼き焼いてるからさー。レジにも出てこないし。喋りかけるタイミングなくてもどかしかったんだよね。一沙もあの時から俺のこと意識してくれてた?」
「してたよ。たまちゃんから見つめられたら、誰だってするよ……」
環が寄田の鼻を摘み、それから上唇を指でなぞった。ところ構わずいちゃつこうとする環とは違い、寄田は恥じらいがあるようだ。
「一沙、可愛いなあ」
彼に触れられるたびに眉を顰めるのだが——その表情がまたすごい。初見ならば、照れ隠しだとは思わないだろう。
彼が歩くと、対向者がそれとなく避けて通るのもわかる気がした。
「たまちゃん、ほら——枚田さんが困ってるから……」
しびれを切らした寄田は、環を軽々持ち上げて、隣に座らせる。それから自分は立ち上がった。
「枚田さん、どうぞ座ってください」
「あー、いいよ。大丈夫」
断ったもののなんとなく手持ち無沙汰で、スマートフォンでしゅうまいハウスを撮影した。
「なんかすみません」
寄田が謝ってくるので、枚田は手のひらを振った。
「全然。やっぱり番になれるっていいよねー。運命的な感じがして、うらやましいよ」
別に、皮肉ったわけではなく、気まずそうにしている寄田に向けてフォローしただけだ。
しかし環は、しめたとばかりに、その何気ない発言を深掘りしようとしてくる。
「州ちゃんとマイだって運命じゃん」
枚田は口を開けたまま、しばらく硬直した。
「冗談やめてよ。運命だったら、こんな結末になってないし」
「まだ結末じゃないでしょ」
環の言葉に、かわいた笑いが漏れる。
だとしたら、ずいぶんと長いインターバルだ。それを挟んで迎えるエンディングが、幸せなものだとも限らないのに。
メッセージアプリを起動し、先ほどの画像をアップロードして州に共有した。
ついでに画面を確認してみれが、いままでのメッセージにも、やはり既読マークはついていない。
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