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再会
エレベーターに乗り込んだ途端、額から目頭を汗が伝った。手が震えて、なかなかフロアボタンを押せない。
とんでもないことをしてしまったと、改めて思った。
指定したフロアにおりて部屋の前まで行くと、ご丁寧にドアガードが挟まれていた。
隙間から漏れてくる金木犀の香りが、枚田を室内へと誘う。
念のためノックをしてから中に入ると、高校生の時の記憶がふと蘇った。
あの時も、呼び出されて、こんなふうに慌ててやってきたっけ——
「はや」
州はダブルベッドに横たわりながら揶揄うように言ったが、それに対する怒りはなかった。
期待と不安とを、慌てて布団の下に隠したような焦りを——彼自身からもわずかに感じ取ったからだ。
フェイスラインが引き締まり、顔自体は大人びたはずなのに、フード付きパーカーを着ているせいか、幼く見える。
まるで、慌ててやってきた枚田を笑いながら見つめていた、高校時代のときのような————
「emmmmmy0907。頭ん中花畑だな」
英字と数字の組み合わせが映水のアカウントを指していることに、一歩遅れて気づく。
「なにが?」
「事細かにSNSに撒き散らしてるよ。お前との情報」
ああ、だから結婚式場の下見のスケジュールを把握していたのか————
ろくに確認もしないまま、先ほどの会話の答え合わせを終える。
映水になにを垂れ流されようが、もう今はどうだってよかった。
「州、心配したんだよ」
立ったまま彼を見下ろし、拳を握る。
州はやたら嵩のある枕を背もたれにしながら、枚田の手のひらが丸まっていくのをただ、視線で辿っている。
「なんで突然いなくなったの」
「別に」
「別にって、州はなんとなく家出すんのかよ」
喋りながら、さまざまな感情が込み上げてくる。怒りと懐かしさと、それから——。
一度言葉に躓くと、不覚にも泣いてしまいそうになり、唇を噛み締めた。
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